HISの特別損失45億円のニュースを教材に、海外市場変動に強いAI活用(多言語対応・需要検知・業務自動化)を中小向けに具体化します。

観光企業の損失から学ぶ、海外市場変動に強いAI活用術
2025/12/23の報道で、HISが2025年10月期に特別損失45億円を計上したことが話題になりました。内訳は減損損失27億7200万円と事業整理損17億5200万円。トルコ事業の縮小、欧州での収益性低下が響いた形です。一方で、売上高は3731億6百万円(前期比+8.7%)、営業利益も**116億27百万円(同+7.1%)と増収増益。けれど純利益は47億19百万円(同-45.9%)**まで落ち込みました。
このニュースは「大企業の話」で終わりません。海外市場は、為替、地政学、航空座席供給、現地の規制、評判(SNS炎上含む)など、複数の要因が同時に効いて突然“採算ライン”が変わります。中小の旅行会社、DMO、宿泊事業者にとっては、むしろ他人事ではない。
ここで効いてくるのが、観光・ホスピタリティ業界におけるAIの役割です。私は「AI=チャットボット」だけだと思っている会社ほど、痛い目を見やすいと感じています。AIは接客だけでなく、市場変動の検知、仕入れ・在庫・料金、業務の引き締め、コンプライアンスまで、守備範囲が広い。今回はHISのニュースを“教材”にして、海外市場の揺れに強いAI活用を具体化します。
特別損失45億円が示す「海外事業の現実」
結論から言うと、海外事業の怖さは「売上が落ちること」より、当初想定していた収益性が崩れた瞬間に“資産価値”が一気に下がることです。減損はまさにそれを表します。
HISの発表では、当初予定の収益が見込めなくなったため、事業用資産やのれんの帳簿価額を回収可能価額まで減額。国内外のホテル・旅行事業資産が対象となり、例として国内のホテル事業資産で12億9700万円、グアムのホテル関連で7億9700万円の減損が挙げられています。
中小企業に置き換えると何が起きる?
中小の現場に置き換えると、減損という会計処理はなくても、実態としては似ています。
- 海外向け商品造成に投じた人件費・広告費が回収できない
- 外国語サイトや予約導線の投資が「伸びない国」だと判断され塩漬け
- 現地オペレーター/提携先の縮小で供給品質が落ち、クチコミが悪化
要するに、「前提が崩れた」ことに早く気づけるかが生死を分けます。
AIは「海外市場の変化」を早く見つけるために使う
海外市場の対応が遅れる主因は、現場が怠けているからではありません。情報が散っていて、判断材料が遅れて届くからです。AIが効くのは、ここ。
1) 需要変動の兆候を、毎日“定点観測”する
AIで実現すべきは、次のような“毎日更新される異常検知”です。
- 国・都市別の検索流入(自社サイト/広告)
- 予約転換率(CVR)の急落
- キャンセル理由のテキスト分析(自由記述を分類)
- 価格弾力性(値上げ・値下げに対する反応)の変化
- SNS・クチコミのネガティブ比率の増加
ポイントは、ダッシュボードを作って満足しないこと。「いつもと違う」を自動で知らせる仕組みが必要です。
市場変動への最短ルートは、“分析”ではなく“検知”の自動化。
2) 多言語対応は「翻訳」ではなく「意図の解像度」が勝負
海外向けの問い合わせは、同じ英語でも意図が違います。
- “Can I cancel?”(無料キャンセルの条件確認)
- “Is breakfast included?”(プラン差異の確認)
- “Is it safe to travel now?”(治安・情勢への不安)
AIは、単なる翻訳ではなく、問い合わせを意図別に分類して一次回答し、必要なものだけをスタッフへ渡せます。これにより、少人数でも国際対応の品質が維持できます。
収益性低下に効くのは「価格と在庫の意思決定」を速くするAI
収益性が落ちる局面で、現場がやりがちなのは「とりあえず値下げ」。でも値下げは、利益だけでなくブランドも削ります。AIの役割は、値下げの前にどこをどう直すべきかを数字で示すことです。
需要・コスト・供給制約を一緒に見る
観光の収益性は、単純な売上では決まりません。
- 仕入れ(客室、交通、現地手配)の原価
- 送客手数料や広告費
- 人員配置(繁忙に合わせたシフト)
- 為替・決済コスト
AIの実務的な使い方は、これらを統合して「利益ベース」で判断すること。
すぐ使える判断ルール(例)
- 利益が出ている市場:広告は維持(むしろ機会)
- CVRが下がった市場:LP/導線・言語表現を改善(値下げは最後)
- キャンセルが増えた市場:条件の見直し・安心情報の提示を強化
- オペ負荷が急増:自動応答+有人エスカレーションで防波堤を作る
「事業縮小」局面で差が出るのは業務自動化とガバナンス
HISは損失計上と同時に、助成金の不正・不適正受給問題を受けた再発防止策(6項目)の完了も報告しています。観光業は季節波動が大きく、雇用や助成金、勤怠、委託管理が絡むため、ガバナンスが弱いと一気に信用が崩れます。
AIはここでも使えます。私は、守りのDXができていない会社ほど、攻めのマーケAIを入れても事故ると思っています。
1) 労務・勤怠の「異常」検知
- 打刻漏れ、長時間労働の兆候
- シフト偏り(特定の人に負荷が集中)
- 繁忙期の要員不足の予兆
2) 公的申請・社内規程のチェック支援
- 申請に必要な証憑の不足を検知
- 社内ルールと申請条件の突合(チェックリスト自動生成)
- 内部監査向けのログ整備
3) 内部通報・相談窓口の一次受付
匿名性を守りながら、相談内容の分類と緊急度の振り分けをAIで行うと、担当者の心理的負荷も下がります。結果として、問題が“手遅れになる前”に表に出やすい。
中小の観光・宿泊が今すぐ始めるAI導入ロードマップ(90日)
結論はシンプルです。大規模なAIプロジェクトより、データの通り道を作って、毎週の意思決定を速くするほうが効きます。
0〜30日:問い合わせと予約の“見える化”
- 問い合わせチャネル(電話/メール/OTA/フォーム)を一覧化
- よくある質問トップ20を抽出
- キャンセル理由をカテゴリ化(手作業でもOK)
31〜60日:多言語・一次対応の自動化
- 多言語FAQの整備(英語・繁体字・韓国語など主要言語)
- 自動応答+有人引き継ぎのルール化
- 返信テンプレを「意図別」に統一
61〜90日:収益性モニタリングとアラート
- 市場別の粗利、広告費、CVRを週次で確認
- 異常値(急落/急騰)の通知
- 施策ログ(何をやったか)を残し、学習できる状態にする
AI導入で一番もったいない失敗は、ツールを入れて“会議のやり方”を変えないことです。
2026年に向けて:海外市場は「読めない前提」で備える
HISは2026年10月期の業績予想として、売上高4200億円(前期比+12.6%)、営業利益140億円(同+20.4%)、純利益**90億円(同+90.7%)**を見込むとしています。回復シナリオがある一方で、海外事業はこれからも“想定外”が起きます。
中小企業が同じ揺れを受けたとき、資金力で耐えるのは難しい。だから私は、観光・ホスピタリティにおけるAIは「売上を伸ばす道具」である前に、変化に耐える筋肉だと思っています。
次の一手は、派手な施策ではなく、
- 変化を早く見つける
- 収益性で判断する
- 現場が回る形で自動化する
この3点を押さえること。
あなたの会社では、海外需要の変化を“翌月の集計”で見ていますか。それとも“今日のアラート”で見ていますか。ここが、2026年の差になります。