UDRE設立で海中データ×ロボティクスの事業化が加速。AI解析は海中観光の安全管理や港湾点検を定量化し、稼働率と生産性を同時に上げます。

海中データ×AIで変わる観光と港湾運営:UDREが示す次の一手
日本の海は広い。領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた海域は国土の約12倍とも言われます。ところが、その“広さ”がそのまま課題になっています。調査コストが高い、人が足りない、データが揃わない。結果として、海の価値をビジネスにも安全にも十分つなげ切れていない。
2025/12/26、株式会社日本総合研究所が**「海中データ&ロボティクス(UDRE)事業化研究会」の設立を発表しました。海中データの市場創出と、関連するロボティクス産業の振興を官民で狙う動きです。ここで私が注目しているのは、資源開発だけじゃありません。観光・ホスピタリティ、そして私たちの連載テーマである建設業界のAI導入(生産性向上と安全管理)**にも直結する“使い道”が見えている点です。
海中データは、「海の中の状態が分かる」だけでは終わりません。AIで解析し、運用に落とすと、海中観光の安全、港湾・マリーナの維持管理、沿岸インフラの施工計画まで一気に変わります。
UDREとは何か:結論は「海中データの事業化の型づくり」
UDREの本質は、海中データを“研究成果”で終わらせず、ユーザーのニーズから逆算して事業モデル・サービス・ロボット(センサー)を設計する枠組みを作ることです。
プレスリリースの要点は大きく3つ。
- 海中データ:海底を含む海中データへの官民ニーズを明確化
- サービス:データ提供の価値とバリューチェーン、官民連携、事業モデルの整理
- センサー(ロボット):必要機能を「性能」だけでなく「運用」込みで最適化
参加機関には、重工・建設・海運・計測・研究機関に加え、AI企業も名を連ねています。つまり「ロボットを作る会」ではなく、現場に回るサービスを作る会です。
観光業にとっては、ここが重要。海中観光や沿岸観光は、魅力がある一方で、事故・環境悪化・運休判断といった“運用の壁”が厚い。海中データ×AI×運用設計が揃うと、その壁が薄くなります。
海中データ×AIが観光にもたらす3つの実利
結論から言うと、観光で効くのは「体験価値」より先に、安全と稼働率です。AIは派手な演出より、まず運営を強くします。
1) 海中観光の「安全管理」を定量化できる
ダイビング、シュノーケリング、グラスボート、海中展望施設、サップ体験。どれも天候と海況に左右されます。
海中データ(潮流、濁度、波浪、海底地形、漂流物、視界条件など)をロボティクスで継続取得し、AIで解析すると、次が可能になります。
- 運休判断の基準をデータで統一(属人性の低減)
- 危険兆候の早期検知(離岸流リスク、視界悪化の予兆など)
- 安全説明の高度化(「今日は南側は流れが強いのでコース変更」など納得感)
観光現場では「安全に自信はあるが、説明が難しい」という状況がよくあります。AIで見える化できると、スタッフ教育にも効きます。
2) “見どころ”を増やすより、「外さない体験」を作れる
旅行者が嫌うのは、体験の中止そのものより、行ってから分かる中止です。冬の沿岸地域(12月〜2月)は特に、海況でプログラムが変わりやすい。
海中データを使って、数時間〜数日先のコンディションを予測し、予約導線に反映できると、
- 代替プラン提案(屋内展示、港湾ナイトツアー、温浴など)
- 時間帯の最適化(午前は不可、午後なら可)
- 需要平準化(混雑する日・時間の誘導)
がやりやすくなります。
これはAIによる需要予測やダイナミック・スケジューリングの領域で、ホテル・交通の収益管理(レベニューマネジメント)とも相性がいい。海中データは、観光の“供給側の確度”を上げる材料になります。
3) ブルーカーボン/自然再生を「成果で語れる」
サステナブルツーリズムは、言葉だけだと空回りします。必要なのは、継続計測→成果の提示です。
たとえば、藻場再生、サンゴ保全、海域清掃、海洋ごみ削減の取り組みは、モニタリングが弱いと評価されにくい。
海中データとAI解析で、
- 海底の状態変化(被度、地形、堆積の傾向)
- 濁度や水質の推移
- 生態系指標の簡易推定(画像解析など)
を運営側が語れるようになると、観光の価値が「参加体験」から「地域の資産形成」へ一段上がります。
港湾・沿岸インフラで効く:建設×AIの「安全管理」と「生産性向上」
この連載の文脈で見ると、UDREは“海のDX”というより、沿岸建設・維持管理のAI実装を前に進める装置です。
海中は「見えない現場」だから、AIが効く
建設現場のAI活用は、カメラでの安全監視、工程最適化、BIM/CIM連携が中心になりがちです。でも港湾・護岸・桟橋・海底ケーブル・海底地盤は、そもそも目視が難しい。
- 潜水士に依存し、作業枠が限られる
- 天候・海況で工程が崩れやすい
- 記録が点になり、時系列比較が難しい
ここに、**ロボットで“定点観測を増やす”**アプローチが入ると、AI導入の勝ち筋が見えます。
具体例:港湾・マリーナの維持管理(点検)
海中ロボットで桟橋下や岸壁の状態を撮影し、画像解析で損傷や付着物を検出できると、
- 点検頻度を上げつつ、人員負担は抑える
- 異常が小さいうちに補修し、工事費を抑える
- 証跡が残り、発注者説明が楽になる
という流れが作れます。これは建設のAI導入でよく言う「安全と品質の見える化」を、海中に拡張する話です。
具体例:施工計画の最適化(工程と安全)
海底地形や堆積の傾向、潮流データが揃うと、
- 施工船の稼働判断
- 資材搬入ルート
- 作業ウィンドウ(安全に作業できる時間帯)
の最適化ができます。工程が乱れがちな海洋工事では、1日ズレが大きなコストになります。AIはここを縮められる。
UDREの狙いを観光事業者が“自分ごと化”する方法
「海中データ」と言われると、観光側は距離を感じがちです。ですが、導入の入口はシンプルで、私は次の順番が現実的だと思っています。
ステップ1:目的を「事故ゼロ」ではなく「判断の標準化」に置く
事故ゼロは当然として、KPIにしづらい。
- 欠航/中止判断のブレを減らす
- 判断に必要な情報を3分で揃える
- 新人でも同じ基準で判断できる
のように、運用KPIへ落とすと進めやすいです。
ステップ2:必要な海中データを「3種類だけ」決める
最初から全部は集めません。観光・マリーナ・港湾で効きやすいのは、たとえばこのあたり。
- 濁度(視界)
- 潮流(安全)
- 海底状況(設備・環境)
ここが揃うと、体験価値・安全・保全の3点に繋がります。
ステップ3:AIは「予測」と「異常検知」から始める
現場実装で成果が出やすいのは、次の2つです。
- 短期予測:数時間〜数日の運用判断(催行可否、時間帯)
- 異常検知:いつもと違う濁り、漂流物、設備周辺の変化
派手な生成AI演出は後回しでOK。まずは稼働率と安全の土台を作るべきです。
よくある疑問(People Also Ask)
Q. 海中データって、結局だれが買う(使う)の?
答えは「運用を持つ人」です。観光なら催行判断をする事業者、港湾なら維持管理や工事を担う自治体・港湾管理者・建設会社。意思決定に直結するデータは、費用対効果が出ます。
Q. ロボットが増えるとコストが上がりませんか?
初期は上がります。ただ、潜水調査や緊急対応が多い現場ほど、年間で見ると下がりやすい。ポイントは「ロボット導入」ではなく、データ取得頻度と運用の置き換えを設計することです。
Q. 観光でAIを使うと“人の温かさ”が消えませんか?
消えません。むしろ逆です。AIが裏方の判断と監視を担うほど、スタッフは接客やストーリーづくりに時間を回せる。ホスピタリティは、忙しさの中では磨けないんです。
2026年に向けて:海中データは「観光の安全」と「沿岸建設の標準装備」になる
UDRE事業化研究会の設立は、海中データとロボティクスを“現場の道具”にするための合図です。観光で言えば、海中観光の安全管理、体験の確度、サステナブルな取り組みの可視化に直結します。建設の文脈では、港湾・沿岸インフラの点検と工程の不確実性を減らし、生産性向上と安全管理を同時に進められます。
私なら、まず「判断の標準化」と「短期予測」から着手します。ここが固まると、次に“体験価値を上げるAI”が生きてくる。
海の価値は、海の中だけに眠らせない。海中データ×AIを、地域の運営能力に変えるのが次の競争です。あなたの施設・地域で、最初に標準化すべき判断は何でしょうか。