マンション長寿命化モデル事業の採択ニュースを、建設現場のAI活用に直結させて解説。耐久性診断・工程・安全管理で明日から使える要点を整理。

マンション長寿命化モデル事業採択で加速するAI活用
築40年、50年のマンションが「当たり前」になりつつある今、長寿命化の話は不動産の世界だけの課題じゃありません。現場を担う建設会社・改修会社にとっては、調査・診断→合意形成→設計→施工→維持管理まで、やることが増える一方で、人手は増えない。ここで効いてくるのがAIです。
2025/12/19、国土交通省が「マンションストック長寿命化等モデル事業」の令和7年度(第3回)採択プロジェクトを公表しました。応募7者8件のうち、6者7件を採択。老朽化マンションの再生検討から、長寿命化に資する先導的な再生プロジェクトまで支援する枠組みが、淡々と進んでいます。
このニュースの本質は「補助制度が出た」だけではありません。長寿命化の案件が増える=調査・改修・安全管理の標準が上がるということ。つまり、建設業界のAI導入が“あったら便利”から“入れないと回らない”へ近づいています。この記事では、モデル事業の読み解き方と、現場で効くAI活用の具体策を整理します。
国交省「マンションストック長寿命化等モデル事業」採択の要点
結論:採択の動きは、改修・建替の「前工程」と「管理の質」を重視しているサインです。
今回の第3回採択では、主に以下のタイプで整理されています。
- 先導的再生モデルタイプ
- 計画支援(事業前の立ち上げ・準備段階の支援)
- 工事支援(長寿命化等の改修工事や建替工事の実施段階の支援)
- 管理適正化モデルタイプ
- 計画支援(事業前の立ち上げ・準備段階の支援)
- 改修工事支援(管理水準を向上させるための大規模修繕工事の支援)
提案受付期間は2025年(令和7年)10/06〜10/10と短期集中。採択数は、先導的再生モデルの計画支援が4件、工事支援が2件、管理適正化モデルの計画支援が1件という構成でした。
ここから読み取れるのは、国や自治体が見ているのは「工事そのもの」だけでなく、
- そもそも再生方針をどう作るか
- 合意形成の前提となる劣化・リスクをどう説明するか
- 管理水準をどう底上げするか
という、前工程の品質だということです。そして前工程を強くする道具として、AIはかなり相性がいい。
老朽化マンションの現場で、AIが効くポイントは3つ
**結論:AIが一番効くのは「見落としを減らす」「優先順位を決める」「安全を守る」**の3領域です。
長寿命化案件は、単なる改修工事ではなく“リスクを管理する事業”になります。私はこの手の案件で詰まりやすいのは、技術というより「判断材料が散らばっていること」だと感じます。AIはそこをまとめてくれる。
1) 耐久性診断(劣化検知)— 写真・動画を“診断データ”に変える
AI画像認識は、外壁・屋上・共用部の劣化兆候(ひび割れ、浮き、漏水痕、鉄部腐食など)を、写真や点検動画から抽出するのが得意です。
もちろん、最終判断は技術者です。ただ、現実には点検写真は数千枚になることもあり、
- 見落とし
- 属人差
- 記録粒度のバラつき
が出ます。AIはここを均す。
「AIで診断する」の正体は、診断を代替することより、診断の“漏れ”を減らし、説明に耐える根拠を揃えることです。
実務の使い方としては、まずは「一次スクリーニング」をAIに任せるのが現実的です。
- 点検画像をAIで自動分類(ひび割れ疑い/漏水疑い/鉄部腐食疑い 等)
- 重点箇所を技術者が再確認
- 報告書用に画像を自動整理(部位別・階別)
これだけで、点検〜報告のリードタイムが縮みます。
2) 保全計画・修繕の優先順位付け—「全部やる」から「順番を決める」へ
高経年マンションの改修で揉めやすいのは、「どこからやるか」です。資金も期間も限られる。だから必要なのは、最適化です。
AI(というより機械学習+最適化)は、以下のような入力をまとめて扱えます。
- 過去の修繕履歴(時期・工法・費用)
- 点検結果(劣化度、要補修度)
- 住民影響(騒音・動線制約・停電など)
- 工事制約(足場、クレーン動線、近隣条件、季節要因)
そして出力として、
- 5年・10年の修繕シナリオ
- 予算に合わせた優先順位
- 工期平準化(職人不足に合わせてピークを削る)
を提示できます。
年末〜年度末は、予算・発注が動く一方で現場は逼迫しがちです。2025/12/19時点でも同じ。だからこそ、施工計画の早期化と平準化は営業・現場の両方に効きます。
3) 安全管理— 長寿命化工事こそ事故が起きやすい
改修工事は新築より危険な場面があります。
- 居住者が近い(第三者災害リスク)
- 既存躯体の想定外(下地不良、劣化、漏水)
- 足場・高所・狭所が多い
AIの安全管理で現実的に効くのは、画像認識×ルール×記録です。
- ヘルメット・フルハーネス未着用検知
- 立入禁止エリア侵入検知
- 資材の仮置き・転倒リスクの検知
- KY活動・ヒヤリハットの記録を自然言語で整理(翌週の朝礼ネタに落とし込む)
「監視されている感」を嫌がる現場もあります。だから設計が大事で、私は**“指摘のためのAI”ではなく“事故を未然に止めるAI”**として、アラート基準を絞る運用が合うと思っています。
モデル事業に絡む事業者が、AI導入で勝ちやすい理由
結論:補助・モデル事業は、関係者が多く説明責任が重い。だからAIで“説明できるデータ”を持つ会社が強いです。
長寿命化・再生は、技術だけで決まりません。
- 管理組合
- 区分所有者
- 設計・監理
- 施工会社
- 行政(場合により)
意思決定者が多く、合意形成に時間がかかります。ここで効くのが、AIを使った可視化です。
合意形成の「詰まり」をAIで減らす
例えば、劣化診断結果をBIMや3Dモデルに紐づけ、
- 「どの部位が、どのレベルで、どれくらい危ないか」
- 「今年やらない場合、次の5年で何が起こりやすいか」
を図で示せると、説明コストが下がります。
住民説明会でよく起きるのは、“不安”と“疑い”の増幅です。
- 本当に必要?
- なぜこの金額?
- 工事で生活はどうなる?
AIは万能ではありませんが、根拠の提示が早い。この一点で、プロジェクトの前進力が変わります。
工事段階の生産性向上—「記録」の自動化が地味に効く
長寿命化工事は記録が多い。写真、検査、是正、出来形、近隣対応。
AI導入の初手としておすすめなのは、派手なロボットではなく、
- 写真の自動整理(日時・場所・部位・工程タグ付け)
- 検査帳票の下書き生成
- 是正管理のチケット化
のような“地味な自動化”です。職長や現場代理人の残業を削るなら、まずここ。
建設会社向け:マンション長寿命化×AI導入の進め方(現実解)
結論:まずは「診断」「工程」「安全」のうち、1領域だけ小さく始めて、データ形式を揃えるのが勝ち筋です。
AIは導入そのものより、運用設計で失敗します。おすすめの進め方を、現場目線でまとめます。
ステップ1:対象業務を1つに絞る(欲張らない)
最初から「BIMもAIも全部」はだいたい頓挫します。
- 外壁点検写真の分類
- 足場上の安全装備チェック
- 工程遅延の兆候検知(週次報告の文章から抽出)
など、1ヶ月で効果が見えるテーマを選びます。
ステップ2:現場データの“型”を決める
AIの精度より重要なのが、入力の品質。
- 写真の撮り方(距離・角度・スケール)
- ファイル名ルール(棟・階・部位・日付)
- 点検項目の定義(ひび割れ幅の区分など)
ここが揃うと、AIなしでも現場が回りやすくなります。
ステップ3:説明責任のためのログを残す
長寿命化は「後から問われる」仕事です。
- なぜその判断をしたか
- 何を見てOKにしたか
- いつ誰が確認したか
AIを使うなら、なおさら判断ログが必要。これは守りではなく、次の受注で効く武器にもなります。
よくある疑問:AIは“老朽化マンション”に本当に使える?
答え:使えます。ただし「現場のばらつき」を前提に設計したときだけです。
- 図面が揃っていない
- 写真が不統一
- 過去の修繕履歴が曖昧
この状態で高度な予測をやろうとすると失敗します。だから順番は、
- 点検・記録の標準化
- 画像認識・文章整理で“データ化”
- 最適化・予測に進む
が現実的です。
長寿命化に強い会社は、施工が強い会社ではなく「データが揃っている会社」です。
次の一手:モデル事業の追い風を、AI導入の口実にする
国交省の採択発表は、現場にとっては“遠い話”に見えがちです。でも私は、こういう政策ニュースこそ社内を動かす材料になると思っています。
- 案件が増える前に、点検・改修の体制を整える
- 安全管理を仕組み化して、第三者災害リスクを下げる
- 記録を自動化して、現場の疲弊を止める
この3つは、今日から着手できます。
「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」というシリーズで言うなら、マンション長寿命化はAIの価値が“数字”として出やすい領域です。点検工数、報告工数、是正の手戻り、事故ゼロ。全部、改善指標になる。
あなたの会社が次に取りにいくのは、改修工事の受注だけですか。それとも、長寿命化の“意思決定”から伴走できるポジションですか。どちらに立つかで、必要なAIの打ち手は変わります。