Kayakの「AI Mode」は、旅行の検索・比較・予約をチャットで完結させる流れを加速。観光・宿泊事業者が成約率を上げる会話設計と多言語運用の要点を整理。

旅行予約のAIチャット化が加速:Kayak「AI Mode」から学ぶ実務
旅行予約は「検索→比較→予約→変更」の一連が長く、途中で離脱が起きやすい。年末年始や春休みの計画が動き出すこの時期(2025/12/27時点)、宿泊・航空・現地体験の需要は一気に伸びますが、同時に問い合わせも増え、現場の負荷は跳ね上がります。ここに真正面から切り込む動きとして、旅行比較サイトKayakがメインプラットフォームに**「AI Mode」**(旅行の質問・検索・予約までをチャットで進めるモード)を投入しました。
このニュースが観光・ホスピタリティ事業者にとって重要なのは、「AIは問い合わせ対応だけ」から一歩進み、意思決定(比較)と購入(予約)を同じ対話の中で完結させる流れが本格化したからです。言い換えると、ユーザーの頭の中にある曖昧な希望(予算、日程、目的、同行者、苦手)を、AIが具体的な旅程と商品に変換し、最後まで伴走する。
本記事では、KayakのAI Modeを“事例”として読み解きつつ、宿泊施設・観光事業者・DMO/観光協会・旅行会社が今すぐ設計に取り入れるべきポイントを、実務目線で整理します。シリーズ「観光・ホスピタリティ業界におけるAIの役割」の文脈で、多言語・予約対応の自動化・顧客体験(CX)向上までつなげます。
Kayak「AI Mode」が示すのは“検索窓の終わり”
結論から言うと、AI Modeは「検索窓に条件を入力する」体験を、会話で条件を引き出す体験に置き換えます。ユーザーは“正しい検索ワード”を考える必要がなくなり、旅行の意図を自然文で話すだけでいい。これは検索のUX改善ではなく、購買導線そのものの設計変更です。
Kayakの発表内容(RSS要約)では、AIをプラットフォーム本体に組み込み、旅行者が調べる・計画する・予約するをチャットで実行できるとされています。ここで重要なのは「別アプリのChatGPTで相談して、結局サイトに戻って検索し直す」という分断を消すこと。分断が減るほど、離脱も減ります。
観光・ホスピタリティ側から見ると、この変化は次の現象を生みます。
- 比較サイト内で“質問→提案→購入”が高速化し、料金・空室・立地以外の魅力訴求(体験、目的適合)が勝負になる
- 旅行者の検討が「条件」から「目的」へ寄る(例:温泉旅館を探す→“子連れでも静かに過ごせる”)
- 予約前後の不安(キャンセル、チェックイン、食事制限)が会話で解消され、直前予約が増えやすい
“AIに聞けば決まる”時代の旅行者行動
AIチャットは、旅行者の行動を「検索の巧さ」ではなく「意図の明確さ」で前進させます。だから事業者が備えるべきは、広告文の言い回しよりも、
AIが拾える粒度で、商品・体験の特徴がデータ化されているか
です。ここが弱いと、AIが提案しようとしても材料がなく、結局「価格順」の世界に戻ります。
観光・ホスピタリティ事業者に効く3つのインパクト
AI Modeのような仕組みが普及すると、宿泊・観光側の実務は3点で変わります。ここを押さえると、AI導入が“コスト削減”で終わらず、売上とリピートに効きます。
1) 問い合わせの自動化は「前捌き」から「成約支援」へ
これまでのチャットボットは、よくある質問(FAQ)の自動応答が中心でした。もちろん今でも効果はありますが、AI Mode型の体験は、FAQを超えて成約に必要な情報を会話で集める方向に進みます。
例えば宿泊施設なら、次の“成約に効く質問”をAIが自然に聞ける設計が重要です。
- 同行者(子ども/高齢者/ペット)
- 食事制限(アレルギー、宗教、ベジ)
- 移動手段(車、公共交通、送迎の要否)
- 目的(記念日、ワーケーション、観光、療養)
- 予算の「上限」と「譲れない条件」
ここが揃うと、AIは「空いてます」ではなく「あなたの条件だとこのプランが合う」に寄せられます。会話=接客です。
2) 多言語対応が“翻訳”から“運用”に変わる
観光の現場は、英語・中国語・韓国語だけでなく、東南アジアや欧州言語まで広がっています。AIチャットの強みは、多言語で返すこと以上に、
多言語で受けた要望を、同じ業務ルールで処理できる
点にあります。
たとえば「深夜チェックイン可?」「布団よりベッドがいい」「静かな部屋がいい」は、言語が違っても意味は同じ。AIが要望を構造化して、PMS/予約台帳・CRM・タスク管理に落とし込めると、現場の抜け漏れが減ります。
逆に、翻訳だけAIに任せて運用が手作業のままだと、忙しい繁忙期に事故が起きます。多言語AIの導入効果は、オペレーション統一まで踏み込んで初めて出ます。
3) “比較サイト依存”のリスクが増える一方、逆転もできる
AIが比較サイト内で最適提案をするほど、事業者は「どのプラットフォームに選ばれるか」の影響を受けやすくなります。ここを放置すると、
- 価格競争が激化
- 施設の独自性が伝わらない
- 指名検索よりも“AIのおすすめ”に流れる
という形で、利益率が削られます。
ただし逆転も可能です。自社側でもAI接客を整え、公式予約(直販)での体験を良くすると、指名・再訪が取り戻せます。AI Modeが普及するほど、直販の武器は「最安」ではなく「安心して決められる会話」と「手間の少なさ」になります。
実務で使える:AIチャット×予約導線の設計チェックリスト
結論はシンプルで、AIを“回答装置”ではなく“予約まで連れていくスタッフ”として設計すること。ここでは、私が現場設計で見落としがちな点を、チェックリストに落とします。
予約までの会話設計(CVに直結)
- 意図の確認:誰と、何のために、いつ、いくらまで
- 制約の確認:到着時間、食事、禁煙/喫煙、バリアフリー
- 提案の根拠:なぜそのプランか(静か、広い、移動が楽)
- 代替案の提示:満室時の近隣・日程ずらし・部屋タイプ変更
- 次アクションの明確化:予約ボタン、仮押さえ、問い合わせフォーム
AIの提案は“それっぽい”だけでは売上になりません。根拠が一言あるだけで、納得感が上がります。
予約後の不安を先回り(キャンセル率を下げる)
- キャンセル規定の要約(人が読める言葉で)
- 交通案内(最寄駅→徒歩/バス/タクシー目安)
- 天候・季節の注意(積雪、路面凍結、服装)
- チェックイン手順(遅延時の連絡先含む)
2025年末〜2026年初の日本国内は、積雪地域・交通混雑・インフル等の体調事情で予定変更が起きやすい時期です。ここを丁寧に案内できるAIは、クレーム予防にもなります。
データ整備:AIに“言葉”を渡す前に“構造”を揃える
AI Mode型の世界で強い施設・事業者は、例外なくデータが整っています。
- 部屋/プラン属性(広さ、眺望、段差、ベッド、風呂、子ども可否)
- 食事の対応範囲(アレルゲン、代替可否、締切時刻)
- 体験商品の所要時間・集合場所・雨天時運用
- よくある要望と対応可否(レイトチェックアウト、駐車場、送迎)
「情報はWebに書いてある」はAIには不十分なことが多い。AIが参照しやすい形(項目化、表形式、タグ)にするのが近道です。
“AIに任せていいこと/任せないこと”を最初に決める
AI導入で失敗するパターンは、万能を期待して現場が混乱するケースです。私は、任せる範囲を先に切るのが一番効くと思っています。
AIに任せて成果が出やすい領域
- 多言語の一次対応(要望の整理・確認)
- 空室・プラン候補の提示(条件に合うものを絞る)
- 予約前後の案内(アクセス、持ち物、注意事項)
- 体験・周遊の提案(滞在時間に応じたモデルコース)
人が握るべき領域(ブランドと安全)
- 例外対応(規定外のキャンセル、トラブル時の補償判断)
- 安全に関わる案内(災害時、医療、危険行為)
- VIP/記念日など感情価値が高い対応
ここを切り分けておくと、AIは“便利”として受け入れられ、スタッフは“重要な仕事”に集中できます。
よくある疑問:AIチャットで予約が増えるのはなぜ?
答えは、予約に必要な「決断コスト」を下げるからです。
旅行者が予約を迷う理由は、たいてい3つに集約されます。
- 条件が多くて比較に疲れる
- 失敗したくない(騒音、食事、移動)
- 変更が面倒そう
AIチャットは、比較を代行し、不安を言語化させ、変更ルールを噛み砕いて提示できます。結果として、「決められる状態」を作る。これは観光・ホスピタリティの売上に直結します。
次の一手:Kayakの動きを“脅威”で終わらせない
KayakのAI Modeは、旅行者の入口が「検索」から「会話」に移ったことを象徴しています。観光・ホスピタリティ業界にとっての現実は、AIに選ばれる努力と、AIで直販体験を良くする努力の両方が必要になる、ということです。
もし今期(2026年春休み〜GW)に向けて動くなら、やることは多くありません。①商品情報の構造化、②多言語を含む会話設計、③予約導線の明確化。この3つが揃うと、AIは“省人化ツール”から“売上を作る接客”になります。
あなたの施設・地域は、AIに「説明しやすい魅力」を持っていますか。それとも、魅力はあるのに“言葉とデータ”が追いついていないだけでしょうか。次回は、宿泊・体験事業者向けに「AIが提案しやすい商品設計(属性タグの作り方)」を具体例つきで掘ります。