多店舗運営の詰まりは「シフト」が原因になりがち。クラウドシフト管理とデータ連携で、労務・人件費・現場文化まで整える実践ポイントを解説。

クラウドシフト管理×AIで多店舗運営を強くする方法
年末年始(2025/12)に入ると、観光需要の波が一気に大きくなります。ホテルや飲食店、観光施設で共通して起きるのが「忙しいのに、人が足りない」「いるはずなのに、配置がズレる」「現場の責任者がシフトに潰れる」という問題です。売上の機会はあるのに、運営が追いつかない。これ、最ももったいない。
札幌で9店舗を展開するLAUGH DINNINGがクラウドシフト管理「らくしふ」を導入した事例は、この“機会損失の正体”をはっきり見せてくれます。ポイントは、単なるシフト作成の時短ではなく、データで店長の意思決定を変え、現場マネジメント文化を作り直したこと。観光・ホスピタリティ業界でAIを活かしたい人ほど、まずシフト領域から始めた方がいい理由がここにあります。
多店舗の現場が詰まる原因は「シフトが情報ハブになっていない」
結論から言うと、多店舗運営が詰まる最大の原因は、シフトが“表”として存在しているだけで、経営・労務・売上・育成とつながった情報ハブになっていないことです。
LAUGH DINNINGも導入前は、希望回収はLINE、集計はスプレッドシート手入力、ヘルプ調整は電話・転記、売上・仕入れ・人件費は別管理という状態でした。こうなると何が起きるか。
- 店長の時間が「作業」で溶ける(採用・教育・接客改善に回らない)
- 伝達が遅れる(暫定シフトで走り出し、現場が不安定になる)
- 数字の確認が後手に回る(余剰人件費が“気づいたら発生”する)
- 属人化が進む(できる店長が燃え尽き、できない店長は育たない)
観光・ホスピタリティでも同じです。フロント責任者や料飲のマネージャーが、シフト調整と欠員対応だけで週が終わると、顧客体験(CX)の改善が永遠に後回しになります。
「シフトDX」は、顧客体験のDXの前提条件
AIで多言語対応、予約対応の自動化、レコメンド…どれも大事。でも、現場の配置が崩れていると成果が出ません。
AIが予約を増やしても、提供体制が弱いとクチコミが落ちる。 この因果はシンプルです。だから私は、ホスピタリティ企業のAI導入は「現場の時間を取り戻す」設計から入るのが勝ち筋だと思っています。
事例の核心:シフト作成時間を「3分の1」にしただけじゃない
LAUGH DINNINGの成果で分かりやすいのは、**シフト作成時間が従来の約1週間から1〜2営業日に短縮(約3分の1)**した点です。これは派手ですが、核心はその先にあります。
① 希望回収〜確定共有を一元化し、締切が“文化”になる
導入後は、クラウド上で希望回収から確定まで一元管理し、LINE連携のリマインドで提出漏れを減らしました。結果として「遅れても仕方ない」空気が消え、締切内で共有するのが当たり前になった。
この“当たり前”の力は侮れません。観光業でも、繁忙期の1週間前に配置が確定しているだけで、
- 研修の段取り
- 多言語対応できるスタッフの配置
- 団体受入れ時の動線確認 が現実的になります。
② 労務アラートで「守りの品質」を自動化する
「らくしふ」には労務アラート機能があり、総労働時間や残業時間を自動検出・通知できます。これは単なるコンプラ対策ではありません。
ホスピタリティ業界の“守りの品質”は、サービス品質を支えます。
- 無理な連勤が減る → 接客の安定につながる
- 残業が減る → 離職が減る → 採用コストが下がる
AI活用の前に、まず働き方の歪みをシステムで塞ぐ。これが中長期で効きます。
AIとデータ連携が効くポイント:売上とシフトを結ぶ
答えは明快で、売上・予算・勤怠(実績)とシフト(計画)を同じテーブルで見られる状態を作ることです。
LAUGH DINNINGは、経営管理ツール「FLARO」から日別売上目標をエクスポートし、「らくしふ」にインポートする運用を作りました。これにより店長が、経験や感覚だけでなく、目標と人件費率を意識してシフト設計できるようになった。
「計画(シフト)と実績(勤怠)の差分」を見て初めて改善できる
現場改善は、だいたい差分から始まります。
- シフト上は5時間勤務 → 実績は7時間勤務
- 売上が増えたから伸びたのか?
- それとも人が足りずに回らず、残ってしまったのか?
この差分が見えると、「なぜ今月は残業が増えた?」が問いとして成立します。問いが成立すると、改善が回ります。
観光・ホスピタリティでいえば、
- チェックイン集中の時間帯
- 朝食ピーク
- 団体到着の波
- イベント開催日 に合わせた配置の精度が上がり、“忙しいのに売上が残らない日”が減る方向に寄せられます。
観光・ホスピタリティ企業が真似するなら「3段階」で進める
ここからは、私が現場のDX相談でよく提案する進め方です。システムの名前より、順番が大事。
1) まず「希望回収・共有・ヘルプ調整」をクラウドに寄せる
最初の目的は、店長・責任者の作業時間を減らすこと。指標はこれで十分です。
- シフト作成にかかる日数(締切遵守率も含む)
- 提出漏れ率
- ヘルプ調整に要するコミュニケーション回数(電話・チャット含む)
2) 次に「労務アラート」でリスクを先回りする
繁忙期ほど、現場は“善意で”無理をします。だから仕組みで止める。
- 残業見込み
- 連勤見込み
- 法定上限に近いスタッフ
こうしたアラートをシフト段階で出せると、現場が疲弊する前に手が打てます。
3) 最後に「売上予測・予約データ・イベント情報」と連動させる
ここでAIが効きます。AIで“当てる”というより、予測→計画→実績→学習のループを回す。
- 予約・客室稼働・天候・イベントを元に需要を予測
- ピーク時間帯の必要人数を提示
- 実績のズレを学習し、次週の提案精度を上げる
シフトは、AI活用の入り口として相性がいい。理由は簡単で、結果が数字で返ってくるからです。
よくある質問(現場のリアルに答える)
Q. 多店舗じゃないと効果が出ない?
出ます。むしろ単店でも、責任者の負担が集中しがちなので効果が体感しやすいです。多店舗は“横断ヘルプ”がある分、効果がさらに伸びます。
Q. スタッフが使ってくれるか不安
現場で定着する要因は、機能の多さより「提出が楽」「確認が早い」「変更が伝わる」の3つです。LINE連携のように、普段使う導線に乗せるのは強い手です。
Q. AIを入れる前に何を整えるべき?
私は「データの粒度」を揃えるのが先だと思っています。
- いつ(時間帯)
- どこで(店舗・部署)
- だれが(スキル・役割)
- 何時間(計画と実績)
この4点が揃うと、AIは急に役立ちます。
シフトDXは、観光・ホスピタリティの“伸びしろ”を取り戻す
LAUGH DINNINGの導入事例が示したのは、クラウドシフト管理が「効率化ツール」ではなく、現場の意思決定とマネジメント文化を変える装置になり得るという事実です。シフト作成が早くなると、現場に余裕が生まれ、改善の会話が増えます。そこに売上・勤怠・予算のデータがつながると、感覚ではなく数字で人を配置できる。
観光・ホスピタリティ業界におけるAIの役割は、派手な接客ロボットより先に、こういう「裏側の設計」で効いてきます。私は、2026年に伸びる企業は“人の魅力”を磨く前に、人が疲弊しないオペレーションを作っているはずだと見ています。
あなたの現場で、次の繁忙期までに最初に変えるべき「一番重い作業」は何でしょう。シフトがその答えなら、手を付ける価値はかなり大きいです。