AI旅行計画はまだ不確実。まず宿泊・観光で効くのはAIカスタマーサポートと多言語対応です。導入ロードマップと運用の勘所を解説。

AI旅行計画はまだ早い?宿泊・観光は「先にCS」
2025年末の観光・ホスピタリティ業界で、AI導入の話題はもはや珍しくありません。ところが、旅行の“全部”をAIに任せる流れは思ったほど一気には進んでいません。AirbnbのCEOが「AIによる旅行計画はまだ早い」という慎重な姿勢を示し、まずはカスタマーサポート(CS)からAIを入れる方針だと伝えられています。
私はこの判断はかなり現実的だと思っています。旅行計画は「好み」「制約」「現地事情」が絡み合う一方、CSは「聞かれることの型」がある程度決まっていて、AIの得意分野がはっきりしているからです。特に、日本の宿泊・観光事業者にとって重要なのは、AIを“派手な機能”から入れることではなく、体験価値と収益に直結する接点から入れることです。
この投稿はシリーズ「観光・ホスピタリティ業界におけるAIの役割」の一編として、AI旅行計画が難しい理由を整理したうえで、いま現場が成果を出しやすい予約対応の自動化、多言語対応、問い合わせ削減の具体策をまとめます。
AI旅行計画が「まだ早い」と言われる理由はシンプル
結論から言うと、旅行計画は“正解が1つ”ではないため、生成AIの出力が「それっぽいのに外す」リスクが残りやすい領域です。旅行は一回の失敗コストが大きい。だから大手ほど慎重になります。
旅程提案は「制約の組み合わせ爆発」が起きる
旅行の要件は人によって極端に違います。
- 予算(総額・1日あたり・食費だけ別など)
- 移動手段(レンタカー不可、ベビーカー、雪道NG)
- 目的(温泉、推し活、自然、食、ワーケーション)
- 同行者(乳幼児、要介護、犬連れ、海外ゲスト)
- 現地制約(定休日、季節運休、混雑、天候)
AIは文章生成は得意でも、上の制約を一貫して守り続けるのがまだ苦手なことがあります。しかも、旅程は「部分最適の足し算」では成立しません。10:00に着けないなら、その後の予約も全部崩れる。ここが難所です。
「最新情報」と「ローカルの暗黙知」が足りない
旅行計画で外しやすいのは、営業時間変更、臨時休業、季節限定、イベント規制、入場の導線など“現地の今”です。生成AIは、情報が更新されないと古い前提で話を作れてしまいます。
その点、CSは違います。まずは自社が管理できる範囲(予約、支払い、チェックイン、館内ルール、キャンセル)に閉じられる。AIの適用範囲をコントロールしやすいんです。
「旅行計画は外すと旅行全体が壊れる。CSは外しても修正できる。」——この差が、導入順序を決めます。
まず効くのは「AIカスタマーサポート」:利益と体験に直結
AIを入れて成果が出やすいのは、派手な旅程提案よりも、問い合わせ対応の標準化・高速化です。特に宿泊業は、電話・メール・OTAメッセージが混在し、現場負荷が増えがち。ここを整えるだけで、売上機会損失が減ります。
すぐに自動化しやすい問い合わせTOP10
現場で多いのは、だいたいこのあたりです。
- チェックイン/チェックアウト時間
- 荷物預かり可否・時間
- 駐車場(台数、料金、予約要否)
- 交通アクセス(最寄り、送迎)
- 朝食(時間、アレルギー)
- 連泊清掃のルール
- 施設設備(Wi-Fi、ランドリー、温泉)
- キャンセル規定と返金
- 子ども料金・添い寝
- 領収書・インボイス対応
これらはFAQ・規約・館内案内に答えがあるので、AIで自動応答しやすい。ここが「最初の勝ち筋」です。
多言語対応こそ、AIが効く“即戦力”
インバウンドが戻っている今(年末年始に向けて問い合わせが増える時期でもあります)、日本語以外の問い合わせ対応はボトルネックになります。
AIなら、
- 英語・中国語(繁/簡)・韓国語への即時翻訳
- 施設ルールの言い回しの文化差調整(強すぎる禁止表現を和らげる等)
- 返信テンプレをゲスト属性に合わせて出し分け
が現実的です。
ただし私は「全自動返信」をいきなり推しません。おすすめはAI下書き→人が最終確認の運用です。トラブル系(返金・クレーム・怪我)は必ず人が見る。これだけで炎上確率は大きく下がります。
「旅行計画」より先に整えるべきは、データと運用
AIが賢く見えるかどうかは、モデルよりも入力(ナレッジ)と運用設計で決まります。ここをサボると、チャットボットが“それっぽい間違い”を量産します。
ナレッジは3層で作ると失敗しにくい
私の経験上、宿泊・観光のAI導入は次の3層があると安定します。
- 不変情報:住所、チェックイン時間、設備、規約、決済方法
- 可変情報:季節メニュー、イベント、工事、休館、送迎時間
- 判断が要る情報:例外対応、返金、騒音クレーム、緊急時
AIに任せるのは主に1と2。3は「人に回す」ルールを明確にします。
“エスカレーション”設計が体験を守る
AIを使っていて一番大事なのは、迷ったら人へを徹底することです。ゲスト側も、困っている時にロボットに閉じ込められるとストレスが跳ねます。
- 一定回数のやりとりで解決しない
- 「返金」「キャンセル」「怪我」「警察」「火災」などのキーワード
- 感情が強い表現(怒り、差別、ハラスメント)
こうした条件で、即座にスタッフに繋ぐ。AIは「解決」だけでなく、適切に人へ渡すことで価値が出ます。
それでも“AI旅行計画”は伸びる。伸び方は段階的
AI旅行計画が早すぎると言っても、「永遠に無理」ではありません。現実的に伸びるのは、いきなりフル自動の旅程ではなく、旅行の各場面を部分最適で支える形です。
段階1:FAQ+状況整理(旅行前の不安を消す)
旅程を作るより前に、
- 何を持っていけばいいか
- 移動時間の目安
- 雨の日の過ごし方
- 子連れ・高齢者向けの注意点
のような「判断材料」を提示するほうが失敗が少ない。施設側にとっても、現地でのトラブル予防になります。
段階2:滞在中の“次の一手”提案(コンシェルジュ的AI)
チェックイン後の会話は、計画よりも簡単です。位置情報や時間帯、天気、混雑など条件が絞られ、提案の粒度も小さくなるから。
- いまから入れる夕食候補
- 子どもが寝た後の近場のバー
- 翌朝の混雑回避ルート
ここは今後伸びる領域です。
段階3:予約・在庫と直結した“実行できる提案”
本当に便利なのは、提案が「予約」まで完了することです。ただしここは、
- 在庫のリアルタイム性
- 料金変動
- キャンセル規定
- 決済
が絡むので、統合が難しい。だからこそ、Airbnbのようなプラットフォームでも慎重になります。
宿泊・観光事業者が2026年に向けてやるべきAI導入ロードマップ
年末年始は繁忙期。いま新規施策を大きく変えるより、2026年の繁忙に向けて仕込むのが賢い動きです。
1) 最初の30日:問い合わせを“見える化”する
AI以前に、問い合わせの棚卸しをします。
- チャネル別(電話/メール/OTA/DM)件数
- 時間帯別のピーク
- 上位20質問と、その回答の揺れ
ここが揃うと、AIの学習元(ナレッジ)も作りやすい。
2) 60日:多言語テンプレ+AI下書き運用を作る
- 返信テンプレを日本語で整備
- AIで翻訳・言い換え
- スタッフの確認観点(禁止事項、金額、日時、場所)をチェックリスト化
この段階で、返信速度が上がり、予約転換にも効いてきます。
3) 90日:チャットボットを「限定公開」で開始する
いきなり全部の問い合わせに出さず、
- 公式サイトのFAQ導線
- 施設内QRの「よくある質問」
- 夜間帯のみ
のように範囲を絞ります。AIの誤回答が出たら、ナレッジを直す。小さく回して改善が王道です。
4) 半年:CRM/予約管理と連携し、LTVを上げる
問い合わせ対応が安定すると、次は「売上」に繋げやすくなります。
- 目的別の提案(記念日、家族、ワーケーション)
- アップセル(朝食、レイトチェックアウト、送迎)
- 滞在中メッセージ(混雑回避、館内イベント)
AIは“営業トーク”ではなく、必要な人に必要な情報を届ける形が一番強いです。
よくある不安:AIでホスピタリティは薄まらない?
答えは「薄まる運用をすると薄まる」です。逆に言うと、設計次第でむしろ濃くできます。
- 定型回答はAIで即レス → ゲストのストレスが減る
- スタッフは例外対応や提案に集中 → 体験の質が上がる
- 多言語の壁が下がる → “伝わらない”不満が減る
ホスピタリティは、長文メールを書くことではありません。相手の困りごとを早く解決し、安心してもらうことです。AIはそこに効きます。
次の一手:旅行計画より「CS×多言語」から始めるのが勝ち
AI旅行計画は魅力的ですが、2025年末の現実解は、Airbnbが示したようにまずカスタマーサポートです。問い合わせ対応の自動化と多言語化は、ゲスト体験を上げながら、現場の負荷と取りこぼしを減らします。ここは投資対効果が出やすい。
もしあなたが宿泊施設・観光事業の運営側なら、次の問いから始めるのがいいです。
「うちのゲストが“予約前に離脱する瞬間”は、どの問い合わせで起きている?」
その瞬間をAIで支えられたとき、旅行計画AIの時代が来ても、あなたの施設はすでに一歩先にいます。