ジャカルタTODフォーラムを手がかりに、建設業界がAIとBIMをどう組み合わせて海外TOD案件で生産性向上と安全管理を実現するかを具体的に解説。

ジャカルタTODフォーラムが示す「次の成長市場」はどこか
2025/12/23、インドネシア・ジャカルタでTOD(公共交通指向型開発)フォーラムが開催されます。主催は国土交通省都市局とUR都市機構。永井国土交通大臣政務官も出席し、インドネシア政府やジャカルタMRT、公的・民間の関係者が集まるかなり本格的な場です。
都市開発のイベントにしか見えないかもしれませんが、建設会社にとってはもう一つ重要な意味があります。海外の大規模インフラ市場で、日本式のTODとAI・デジタル施工をセットで売り込めるタイミングが来ているというサインです。
この記事では、このジャカルタTODフォーラムのポイントを押さえつつ、シリーズ「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」の一環として、
- TODプロジェクトで何が求められるのか
- なぜAI・BIM・画像認識がTODと相性が良いのか
- 日本の建設会社が今から準備すべきAI活用の具体策
を整理します。
TODとは何か、そして建設会社にとって何が「おいしい」のか
TODは、公共交通を軸にした都市づくりの「パッケージ」です。 国交省の説明では、都市中心部のターミナル駅開発と郊外の都市開発、鉄道を一体的に整備してきた日本型モデルがTODの代表例とされています。
建設会社の目線で見ると、TODは次のような特徴があります。
- 駅・線路など「インフラ土木」
- 駅ビル、商業施設、オフィス、住宅といった「建築」
- デッキ・道路・歩行者空間など「土木×建築の境界領域」
- 長期にわたる段階的開発とリニューアル案件
つまり、一つのTODプロジェクトに、土木・建築・設備・維持管理まで、ほぼ全ての領域の仕事が詰め込まれていると言っていい。しかもジャカルタのようなメガシティではフェーズも規模も大きく、数十年単位のマーケットになります。
この規模と複雑さを、人的リソースだけで管理するのはもう限界です。だからこそ、
TOD × AI × デジタル施工 = 「日本企業の新しい競争力」
という構図が成り立ちます。
ジャカルタTODフォーラムの狙いと、日本企業へのメッセージ
国交省の発表によると、今回のジャカルタTODフォーラムは次の目的を掲げています。
- 日本企業の都市開発分野での海外展開をさらに促進
- インドネシアの都市課題(渋滞、スプロール、環境負荷など)の解決支援
- 日・インドネシア両国の関係者による連携強化
プログラムは大きく2つです。
-
基調講演・プレゼンテーション
- 両国政府幹部によるTODや都市開発の方針説明
- 参加企業による具体的な都市開発プロジェクト紹介
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パネルディスカッション
- 行政・MRT・有識者らによるTODの課題と解決策の議論
これだけ聞くと政策イベントに見えますが、実態としては**「日本の都市開発モデルと企業ソリューションのショーケース」**です。
ここで強い印象を残せる企業は、
- 駅前再開発やTODのマスタープラン
- デジタルを前提にした施工・維持管理
- 安全・環境・レジリエンスまで含めた統合的な提案
をまとめて持ち込める企業です。そしてその中核に来るのが、**BIM・AI・IoTを使った“見える化された建設プロセス”**です。
TODプロジェクトとAIの相性が良い3つの理由
**TODは、AI活用の「教材」としても優秀です。**理由はシンプルで、扱うデータの種類と量が桁違いだからです。
1. 膨大な設計・施工情報 → BIM+AIで統合管理
TODでは、
- 土木構造物(高架橋、トンネル、駅構造)
- 建築(駅ビル、オフィス、商業、住宅)
- 設備(電気・空調・給排水・鉄道システム)
など、膨大なモデルと図面が同時並行で動きます。
ここで有効なのが、
- BIMモデルを共通基盤にする
- BIMと工程・コスト情報を連携(4D/5D BIM)
- BIMデータをAIで解析して「干渉・リスク・コスト超過」を早期検知
といったワークフローです。
実務イメージとしては、
- 干渉チェックをAIで自動化し、設計変更の手戻りを削減
- 過去の類似プロジェクトのデータから、工程遅延しやすい作業を事前に可視化
- 資機材の数量や施工手順をAIが自動算出し、積算・施工計画を時短
など。これらを「セット」として提案できれば、海外の発注者から見ても日本企業の強みが非常にわかりやすくなります。
2. 渋滞・安全・環境 → 画像認識とセンサーで現場を“見える化”
TODは、工事中も完成後も人と交通が常に動いている空間です。安全と交通への影響は、プロジェクト評価の重要な指標になります。
ここでAIが効くポイントは、
- 画像認識による安全監視
- 作業員のヘルメット・安全帯の未装着を自動検知
- 立入禁止エリアへの侵入検知
- 重機と歩行者・車両の接近をアラート
-
センサー+AIによる構造物・環境モニタリング
- 高架橋や仮設構造物のひずみや振動を常時計測
- 粉じん・騒音・振動などの環境負荷をリアルタイム把握
-
交通シミュレーション×AI
- 施工ステージごとの交通影響をシミュレーション
- 代替ルートや作業時間帯の最適化案を自動提案
ジャカルタのように交通渋滞が深刻な都市では、「安全に加えて、交通影響をどこまで減らせるか」も大きな評価軸になります。ここでAIを使った定量的な説明ができる企業は、確実に有利です。
3. 人手不足と技能継承 → AIで“日本のノウハウ”を輸出
海外プロジェクト、とくにインドネシアのような新興国では、
- 熟練技術者は日本からの派遣が中心
- 現地スタッフは若く経験も浅い
- 言語・慣習の違いによるコミュニケーションギャップ
という構造がよくあります。
ここで効いてくるのが、AIによるデジタルな技能継承と支援です。
- 現場動画+AIで、熟練者の動きや段取りをパターン化し、教育コンテンツ化
- 翻訳付きのARマニュアルで、現地作業員に「見てわかる」手順を提示
- 不適切な施工動作を画像認識で検知し、担当者にフィードバック
こうした仕組みは、日本国内の人手不足対策としても有効ですが、実は海外案件の「品質のばらつき」を抑える武器にもなります。
ジャカルタTODのような海外案件で、今すぐ準備できるAI導入ステップ
「海外TODはチャンスなのは分かるけど、何から手を付ければいいのか分からない」という声も多いので、現実的なステップに落としてみます。
ステップ1:自社の得意分野×AIの“勝ちパターン”を決める
まずは、何でもAIにしようとしないことが重要です。おすすめは次の3パターンから1つか2つに絞ること。
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BIM+AIで設計・施工計画の高度化
- 干渉チェック自動化
- 工程・コストシミュレーション
-
画像認識による安全監視・施工管理
- PPE(保護具)着用確認
- 危険エリアへの侵入検知
-
技能継承・教育のデジタル化
- 動画解析による標準作業の見える化
- AR・モバイルマニュアル
自社の強み(駅ナカに強い、土木に強い、設備に強いなど)とTODのニーズを重ねて、「この部分なら日本の経験をAIでパッケージ化できる」という領域を決めることが第一歩です。
ステップ2:国内案件で“型”を作り、海外に持ち出す
海外でいきなりAIを試すのはリスクが高いので、
- 国内の駅前再開発
- 既存線区の高架化や連続立体交差
- 大型複合施設の新築
など、TODに近い国内案件でAIワークフローを試すのが現実的です。
ここでやるべきは、
- 「BIM+AIでどれだけ手戻りを減らせたか」
- 「画像認識でどの程度ヒヤリハットを検知できたか」
- 「教育コストがどれくらい削減できたか」
といった数字をしっかり記録しておくこと。この数字がそのまま海外の発注者への説得材料になります。
ステップ3:海外パートナーと“データを共有できる前提”を作る
AI活用でいつもネックになるのが、データ共有のルールと環境です。ジャカルタTODのような国際案件では、
- BIMデータの標準(IFCなど)
- セキュリティとアクセス権限
- データの保存場所(クラウドか、オンプレか)
を早い段階で合意しておくことが重要です。
ここで、「AI前提の情報共有プロトコル」を提案できる企業は強いです。例えば、
- 現場カメラ映像をクラウドに集約し、AI解析用に匿名化・整理する
- BIMモデルはIFCで統一し、属性情報は共通フォーマットを定義
- センサーからのデータはAPIで集約し、ダッシュボードで統合表示
といった“仕組み”ごと持ち込むイメージです。
建設業界のAI導入ガイドとして、このニュースから学べること
シリーズ全体の視点に立つと、ジャカルタTODフォーラムのニュースから、建設会社が押さえておきたいポイントは次の3つです。
-
AIは単体ツールではなく、「都市開発パッケージ」の一部として売ると価値が跳ね上がる。
TODのような大規模開発では、「設計〜施工〜維持管理」までの一気通貫のデジタル化が評価されます。 -
安全管理・生産性向上・技能継承は、国内でも海外でも“共通の痛み”であり、AI導入の核心テーマ。
画像認識やBIM連携は、その解決策として説明しやすい領域です。 -
国内で作ったAI活用の“型”を、海外案件で再利用できるように設計しておくと、中長期的な武器になる。
データ構造や運用ルールを最初からエクスポート前提で考えるかどうかで、数年後の差がつきます。
このシリーズでは今後、
- 画像認識AIを使った安全監視の導入手順
- BIMとAIを連携させた工程管理・コスト最適化の実例
- 熟練技術のデジタル継承をどう設計するか
といったテーマも深掘りしていく予定です。
ジャカルタのTODフォーラムは、その一つの象徴です。日本の建設会社が、単なる「施工請負」から、AIとデジタルを武器にした“都市開発ソリューション・パートナー”に変わるチャンスが、静かに広がっています。
今、自社でどのAI活用から着手するのか。それを決めるのに、今回のニュースはちょうど良いタイミングかもしれません。