歴史的建造物を改修しつつエンボディドカーボン83%削減。BNBuilders本社事例から、サステナブル改修とAI活用で現場の生産性と安全を高める具体策を整理します。

サステナブル改修で「埋蔵CO₂」を83%削減した事例が示すもの
建物を建て替えずに改修するだけで、新築比83%のエンボディドカーボン(建物に埋め込まれたCO₂)を削減できた――。
米シアトルの歴史的建造物「Ainsworth & Dunn」ビルを本社オフィスに改修した BNBuilders Headquarters は、その数字で業界を驚かせ、ENRの2025 West Best Projectsでサステナビリティと改修・復元の部門賞を獲得しました。
このプロジェクトの面白いところは、環境性能だけではありません。レーザースキャナや360度マッピング、ARを活用したBIM連携など、実質的に“AI準備済み”の施工プロセスになっている点です。日本の建設会社が、これをそのまま真似する必要はありませんが、ここから学べるポイントはかなり多い。
この記事では、
- BNBuilders本社プロジェクトの要点
- そこに潜む「AI活用のヒント」
- 日本の改修・リノベーション案件で今日から始められる実践ステップ
を整理しながら、「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズの一環として、サステナブル改修×AI活用の現実的なロードマップを考えていきます。
BNBuilders本社プロジェクトの概要とサステナビリティ戦略
BNBuilders Headquarters は、1902年に建てられたサーモン加工倉庫(約2,600㎡)を、現代的なオフィスにコンバージョンした改修プロジェクトです。
既存躯体を最大限に活かす「エンボディドカーボン」戦略
ポイントはとてもシンプルで、既存の外壁・構造体をほぼそのまま残したこと。
- 外周のレンガ外壁を保存
- 1階のヘビーティンバー(重厚な木構造)を保存
- 西側隣接敷地の歴史的要素も保存
エンボディドカーボンの多くは、構造体・外装材・躯体コンクリートに集中しています。ここを解体して新築すれば、その分だけ巨大なCO₂が再度「投資」されます。BNBuildersはこれを避け、**「あるものを活かす設計・施工」**を徹底しました。
結果として、
新築建替えと比較して、エンボディドカーボン83%削減。
さらに、国際Living Future InstituteのZero Carbon認証、LEED Gold認証も見込まれており、環境配慮の象徴的な案件になっています。
古材を再利用した新しい動線計画
単に「残す」だけではなく、既存材を“再配置して使う”工夫も特徴的です。
- 3層を縦に貫く新しいスチール階段を新設
- その踏板・踊り場には、建物内から取り外した梁材などの古材を再利用
いわば、建物の記憶を新しいディテールに埋め込む設計。日本でも、古民家改修や倉庫リノベーションでよく見られる考え方ですが、この「ストーリー性のあるマテリアルの使い方」は、採用ブランディングやテナント誘致にも効いてきます。
現代オフィスとしての快適性も確保
サステナブル改修だからといって、快適性を犠牲にしているわけではありません。

- 各階にキッチネットを設置
- 3階にはフルキッチンを新設
- ウォーターフロントの立地を活かすため、3階にロールアップドア付きの開放的なパティオを整備
長く使えるワークプレイスとしての価値を高めることで、「せっかく環境負荷を抑えても、すぐ陳腐化して改修が必要になる」という矛盾を避けています。
施工プロセスに潜む「AI導入」のヒント
BNBuildersのプロジェクトが示すのは、「AIそのもの」よりもAIが活きるための前提条件づくりです。ここを理解しておくと、日本の現場でもやるべきことがクリアになります。
レーザースキャナ×BIM:精度の高い“現況モデル”づくり
このプロジェクトでは、解体前後の構造をレーザースキャナで3D計測しています。
- 太いブレースを持つ木柱を含め、現況を高精度にスキャン
- その点群データをもとに設計・サブコンがプレファブを計画
- 干渉リスクを事前に把握し、現場での手戻りを削減
ここまでだと「高度なBIM活用」に見えますが、今後AIを活用するうえでも極めて重要です。
AIは、精度の高いデジタルツイン(現況モデル)があるほど、工程最適化や干渉検出、安全シミュレーションで力を発揮します。
日本の改修案件でも、
- 既存図は古くて信用できない
- 手書き図面しかない
ということはよくあります。こうしたときにこそ、レーザースキャン+BIM化+AI解析の価値が出てきます。
360度マッピングとAR:現場情報を“データ資産”に変える
BNBuildersのチームは、Cupixの360度マッピングで現場のあらゆる面を記録し、Revizto+ARで施工・品質管理を行いました。
- 360度カメラで、施工の進捗と仕上がりを時系列に記録
- ARで壁の向こうの配管・ダクトを可視化
- 大工は「どこに何が来るか」をリアルサイズで確認
- 設備業者は将来の配管ルートを事前に把握
- 現場監督・施工管理は、メジャーを当てずに納まりをチェック
これらは、すべてAI導入の“入口”になるデータづくりです。
日本でも、
- 360度カメラ+クラウドでの写真共有
- AR表示付きのBIMビューワ
を導入している現場は増えています。ここに、
- AIによる写真チェック(安全装備の未着用検知、危険行動検知)
- 施工進捗の自動判定
- 品質不良らしき箇所の自動ハイライト
を組み合わせていくことで、人手不足の中でも1人あたりの生産性と安全管理レベルを両立できます。

日本の改修・リノベ案件で真似できる「3つの実践ステップ」
ここからは、日本の建設現場・ゼネコン・サブコンが今のリソースで現実的に取り組めるステップに落とし込んでいきます。
ステップ1:既存活用+サステナビリティ指標を「最初から」組み込む
BNBuildersの事例が示しているのは、**「サステナビリティは後付けではなく、企画段階から設計の主題にするべき」**ということです。
日本の案件でできることは、例えば次のようなものです。
- 改修か建替かを検討する初期検討段階で、エンボディドカーボンの概算比較を出す
- 既存構造を残した場合のCO₂削減効果を、施主向け提案資料に定量的に示す
- 古材の再利用(階段踏板、カウンター、造作家具など)を意匠のコンセプトとして組み込む
最初に「CO₂」「既存活用」という軸を置いておけば、AIを導入する時も、
どの工程の効率化・どのマテリアル選定を最適化すれば、CO₂とコストの両方でメリットが出るか
という問いを立てやすくなります。
ステップ2:レーザースキャン+BIM化から始めるAI準備
AI導入を難しく考える必要はありません。まずは“AIが学習できる土台”をつくることからで十分です。
小さな改修案件でも、
- 既存建物をレーザースキャン(外周+主要室内)
- 点群から簡易BIMモデルを作成
- そのモデルをベースに、干渉チェックやプレファブ検討を実施
という3ステップを踏むだけで、
- 現場での施工手戻り削減
- 職人不足の中でも、プレファブ比率UPによる現場作業量の圧縮
- 将来、AIでの工程最適化・設備更新シミュレーションがしやすい「資産化されたデータ」
が手に入ります。
ポイントは、1案件限りではなく「標準フロー」にすること。
毎回点群とBIMを残していけば、
- 自社の施工標準・納まりパターン
- 実際に発生した手戻りやクレームの履歴
などをAIに学習させる“材料”が蓄積し、数年後には自社独自のAIアシスタントも現実味を帯びてきます。
ステップ3:360度カメラ×AIで安全管理と品質管理を自動化
BNBuildersのような360度マッピングとARは、日本でもすぐに取り入れられます。ここに、画像認識AIを組み合わせるのが次の一手です。
例えば、こんな使い方があります。

- 毎日1回、定点で360度撮影
- クラウドにアップすると、自動でAIが解析
- 安全帯・ヘルメット未着用の人物を検知
- 手すり未設置・開口部の養生不足をアラート
- 図面と異なる位置に設置されている機器を検出
担当者は、AIがピックアップした「疑わしい箇所」だけを確認すればよくなるため、
- 人手不足でも、安全パトロールの質を落とさない
- ベテランの“目利き”をAIが補完
という形で、現場の生産性と安全水準を引き上げられます。
労働力不足時代の「勝ちパターン」は、サステナビリティ×AI
多くの建設会社が、
- 技能者が足りない
- 若手が採用できない
- 受注はあるのに、現場を回しきれない
という悩みを抱えています。ここでやりがちなのが、目の前の現場を“根性”でなんとかする発想です。
BNBuilders本社のような事例が示しているのは、まったく逆の方向性です。
「既存を活かしてエンボディドカーボンを83%削減」しながら、 「レーザースキャナ+360度マッピング+AR」で人とデジタルの両方に優しい施工プロセスを組む。
これは、まさに**サステナビリティとAIを組み合わせた“勝ちパターン”**と言っていい。
日本の建設会社・設計事務所・デベロッパーにとっても、
- 都市部の築古ビル・倉庫・工場のリノベーション
- 公共建築の長寿命化改修
- 地方都市の遊休不動産再生
など、同じ発想を持ち込めるフィールドは山ほどあります。
次にどんな一歩を踏み出すか
BNBuildersのケースは「海外の成功事例」に見えるかもしれませんが、本質はシンプルです。
- 壊さないで活かす発想(エンボディドカーボンの削減)
- 現場をデジタルで丸ごと記録する習慣(レーザースキャン・360度撮影)
- 人の勘や経験を、AIで補完する設計(安全監視・進捗把握・干渉チェック)
この3つなら、日本でも明日から動き始めることができます。
もし自社で、
- 「どの案件からAI導入を試すべきか分からない」
- 「BIMやスキャンの投資対効果をどう説明するか悩んでいる」
という状況なら、まずは一つの改修案件を“AI前提のパイロットプロジェクト”にしてしまうのがおすすめです。
建物を長く活かし、現場の安全と生産性を同時に引き上げる。そんなプロジェクトが当たり前になったとき、日本の建設業は人手不足を「構造的な危機」ではなく「次の進化へのきっかけ」として語れるようになります。
その一歩目は、意外と小さな現場での、一台の360度カメラと一度のレーザースキャンかもしれません。