国交省「不動産情報ライブラリ」に追加された災害履歴データを、建設現場のAI×安全管理でどう活かすか。具体的な活用シナリオと導入ステップを解説します。

災害履歴データ×AIが、建設現場の“勘と経験頼み”を減らす
多くの現場では、リスク判断がいまも「ベテランの経験」に強く依存しています。ところが水害・土砂災害・地震の頻度や規模は年々変化し、過去の感覚だけでは読み切れないエリアが増えています。
2025/12/17、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」に災害履歴データ(水害・土砂災害・地震災害)が追加され、APIでも利用できるようになりました。これは、建設業界、とくにAIを活用した安全管理・リスク評価を進めたい企業にとってかなり大きなニュースです。
この記事では、
- 国交省「不動産情報ライブラリ」災害履歴データのポイント
- 建設現場での具体的な活用シナリオ
- AI・BIM・工程管理システムとどう連携できるか
- まず何から始めるべきか(小さく始めるステップ)
を整理していきます。「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズの一環として、実務目線で掘り下げます。
国交省「不動産情報ライブラリ」災害履歴追加のポイント
結論から言うと、今回のアップデートで**“災害に弱いエリア”を機械的に扱えるようになった**ことが重要です。
どんなデータが追加されたのか
国土調査の一環で行われてきた「土地分類基本調査(土地履歴調査)」の成果から、以下の災害履歴が「不動産情報ライブラリ」に掲載されました。
- 水害の履歴
- 土砂災害の履歴
- 地震災害の履歴
これまでも紙の図面やPDF、自治体サイトのハザードマップに点在していた情報が、Web地図で重ね合わせ可能な形で整理されています。
建設会社にとって何が変わるのか
今回のポイントは2つです。
-
Web地図上で、他の情報と重ね合わせできる
- 地価公示
- 都市計画
- 各種防災情報(ハザードマップ など)
-
APIで機械的に取得できるようになった
- 自社システムや民間サービスから自動で呼び出し
- AIモデルの学習データや推論時の入力として利用
紙・PDFベースの情報だと、「見る」ことはできてもAIやシステムでは扱いにくいのが現実でした。API提供されたことで、はじめて本格的な「AI×災害リスク評価」が射程に入ったと言えます。
地価公示地点×Googleマップ連携も地味に効く
同時に、「地価公示・都道府県地価調査」の詳細画面から、その地点のGoogleマップをワンクリックで表示できるようになりました。
- 用地選定の初期検討
- 周辺環境の確認
- 発注者とのオンライン打合せ
といった場面で、位置情報と視覚的イメージの行き来が速くなるのは、現場サイドにとっても設計・企画サイドにとっても使い勝手がいい機能です。
建設現場での具体的な活用シナリオ
災害履歴データは、単体で眺めてもあまり意味がありません。既存の業務プロセスとどう結びつけるかが勝負です。
1. 施工計画前のリスクアセスメント
最もわかりやすいのが、施工計画の立案段階での活用です。
- 候補地の位置情報をもとに、APIで災害履歴データを取得
- 洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域の情報と重ね合わせ
- 「どの災害に、いつ頃、どの程度の頻度で見舞われているか」をスコア化
これをAIモデルに学習させれば、
- 仮設ヤードや資材置場の配置
- 重機の待避場所
- 仮設道路・進入路の計画
などを**“平均的な安全基準+その土地固有のリスク”**で設計できるようになります。
2. 工程管理への自動アラート
もう一歩踏み込むと、工程管理システムと連携した自動アラートも現実的です。
例:
- 工事場所の災害履歴から、「梅雨時期は土砂災害リスクが高い」エリアと判定
- 気象データと組み合わせて、「3日後の大雨予測」と連動
- AIが「斜面掘削作業の中止推奨」「仮設擁壁の事前補強推奨」といったメッセージを現場・所長・本社へ自動通知
ここまでやると、**人間の勘に依存しない“構造化された警戒”**が仕組み化できます。
3. 入札・提案段階のリスク説明資料
民間工事でも公共工事でも、いまは「安全・防災への配慮」を提案書に盛り込むことが当たり前になっています。
- 不動産情報ライブラリの災害履歴
- 各種ハザードマップ
- 自社の過去実績データ
を組み合わせて、AIに**「リスク説明・対策案のドラフト」**を作成させれば、
- 資料作成の工数削減
- 説得力のある定量的な説明
- 発注者との合意形成のスピードアップ
が期待できます。これは営業・企画部門の生産性向上にも直結します。
4. 維持管理・ストックマネジメント
完成後の維持管理フェーズでも使えます。
- 橋梁・トンネル・河川構造物などインフラの点検優先度決定
- 群管理している賃貸物件・物流施設のポートフォリオ評価
に災害履歴を加えることで、**「どこから先に手を打つべきか」**の判断をAIに補助させることができます。
AIとどうつなげる? 技術・データ連携のポイント
ここからは、実際にAIと結びつけるときの考え方を整理します。
位置情報(GIS)とAIをセットで考える
災害履歴データは、基本的に位置情報(座標・ポリゴン)を持つGISデータです。建設会社側で活用するには、
- 現場や候補地の位置情報を一元管理する
- BIMやCIMモデルとGISをリンクさせる
- その上にAIを載せる
という順番で整備していくのが現実的です。
具体的には、
- 施工管理クラウドに「現場座標」を必須項目として登録
- BIMモデルに位置情報を紐づけ、GISツールと連携
- AIは、現場ID → 座標 → 災害履歴・ハザード情報という流れで参照
というイメージです。
どんなAI活用パターンがあるか
建設分野でのAI活用は、ざっくり次の3パターンに分けられます。
-
予測・スコアリング系AI
- 災害発生確率や影響度をスコア化
- 工程遅延リスク、追加コストリスクを見える化
-
最適化系AI
- 作業順序や工程を、リスクとコストを踏まえて自動提案
- 仮設・重機配置のパターンを比較し、リスクの低い案を提示
-
生成系AI(テキスト生成)
- リスク説明資料や安全対策マニュアルの草案作成
- 現場向け日報・アラートメッセージの自動生成
国交省の不動産情報ライブラリAPIは、これらのAIに**「その土地固有の災害履歴」という文脈**を加える役割を果たします。
小さく始めるなら「リスクスコア可視化」から
いきなり複雑な最適化や自動アラートまで狙うと、開発も社内調整も重くなります。現実的には、次のようなステップがおすすめです。
- 各現場の座標を整理・登録
- 不動産情報ライブラリAPIから災害履歴を取得
- シンプルなルールベース or 軽量なAIで**リスクスコア(例:A〜Dランク)**を算出
- ダッシュボード上で「現場別リスクマップ」として可視化
ここまでできれば、
- どの現場に安全担当者を手厚く配置すべきか
- どの案件を重点的に本社がモニタリングすべきか
が一目でわかり、投資対効果も説明しやすくなります。
「安全管理×AI」プロジェクトを進めるうえでの注意点
災害履歴データもAIも強力なツールですが、使い方を誤ると現場に反発されます。ここでは、よくある落とし穴を押さえておきます。
データは“絶対”ではない
災害履歴図やハザードマップは、高精度とはいえ将来を完全に保証するものではありません。
- 調査時期により、最新の地形・土地利用変化を反映していない可能性
- 局地的豪雨など、想定を超える事象
があり得ます。AIの提案はあくまで「意思決定を補助する材料」であり、最終判断は現場と技術者が担うというスタンスを崩さないことが重要です。
現場への“押し付け”にしない
AIや新しいデータ活用は、ともすれば「本社が現場に押し付けている施策」と受け取られがちです。
- 現場担当者と一緒にプロトタイプを作る
- フィードバックを受けてルールやスコアを改善する
- 「安全確認の手間が減った」「説明資料作りが楽になった」など、現場のメリットを最初に作る
こうしたプロセスを丁寧に踏むと、AI導入は一気に進みます。逆にここをサボると、どれだけ高度な仕組みを作っても誰も使いません。
個人情報・コンプライアンスへの配慮
不動産情報ライブラリはオープンデータですが、それを自社の施工履歴や顧客情報と結びつける際には、
- 個人が特定されない形で集計・分析する
- 外部への提示範囲を明確にする
- AIベンダーとのデータ取扱い契約を見直す
といったガバナンスも欠かせません。
これからの建設DXに「災害履歴データ」は欠かせない
ここまで見てきたように、国交省の「不動産情報ライブラリ」に災害履歴データが追加されたことで、建設業界は次の一歩を踏み出しやすくなりました。
- 安全管理の“勘と経験頼み”をデータで補強できる
- AIによるリスク評価・工程管理が現実的なコスト感で始められる
- 入札・設計・施工・維持管理まで、一貫して防災視点を組み込める
「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズ全体でお伝えしている通り、AIは魔法の道具ではありません。ただ、良質なデータが揃った瞬間から、“実務に効くAI”は一気に作りやすくなります。
まずは、
- 自社の現場情報と災害履歴データをひも付けてみる
- シンプルなリスクマップやスコアリングから試す
- 現場と一緒に「AIに何を判断させたいか」を議論する
ここから始めてみてください。次の数年で、「災害履歴データを安全管理に組み込んでいる会社」と「そうでない会社」の差は、目に見える形で表れてきます。
あなたの会社は、どちら側に立ちますか?