内航海運の連携強化策から、建設業がAI導入で生産性と安全性を高めるためのヒントを整理。標準化・ガイドライン・協議の重要性を解説。

内航海運と建設現場、実は同じ課題に直面している
残業規制、人手不足、原価高騰。内航海運も建設業も、この三重苦から逃れられていません。違うのは舞台が「海」か「現場」かだけで、構造的な課題はかなり似ています。
国土交通省が令和7年度に開催する「第2回 安定・効率輸送協議会(3部会合同会合)」は、内航海運業者と荷主企業が、運賃や用船料の“標準的な考え方”と連携ガイドラインを詰める場です。これは単なる料金の話ではなく、業界全体で生産性を底上げするためのルールづくりに踏み込んだ動きと言えます。
建設業界でいま進んでいる「AIによる工程管理・安全管理」「BIMを軸にした関係者連携」と驚くほど発想が近い。この記事では、国交省の内航海運の取り組みをきっかけに、建設業がAIを使って“連携の質”を一段上げるためのヒントを整理します。
国交省の「安定・効率輸送協議会」は何を目指しているのか
結論から言うと、この協議会が目指しているのは、内航海運業界と荷主側の「見える化」と「ルール化」を進め、生産性の高い取引環境を作ることです。
協議会の位置づけ
国土交通省は平成30年2月、内航海運業者と荷主企業が中長期の視野で課題を共有し、改善策を話し合う場として「安定・効率輸送協議会」を設置しました。今回の報道発表は、その令和7年度・第2回目の合同会合に関するものです。
- 日時:令和7年12月24日(水)10:00〜11:30
- 場所:海運ビル8階 日本内航海運組合総連合会 大会議室
- 参加:内航海運業者、荷主企業(鉄鋼、石油製品、石油化学製品の3部会)
議題はシンプルで、「運賃・用船料算出の標準的な考え方」を作り、それを「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」にどう反映するか、という一点です。
なぜ「標準的な考え方」が重要なのか
運賃・用船料の算出は、燃料費、人件費、船の維持管理費、港湾費用など、多くの要素で構成されています。しかし、その中身がブラックボックスのままだと、次のような事態が起こります。
- 業者側:適正なコスト転嫁ができず、過度な値引き要請に耐え続ける
- 荷主側:なぜその金額なのか分からず、投資判断や長期契約がしづらい
ここに「標準的な考え方」を導入することで、
何にいくらかかっているのかを、双方が共通の物差しで語れるようにする
という状態を目指しているわけです。これは建設業の「標準歩掛」「標準積算」とかなり似た思想です。
この動きから見える、建設業に足りていないもの
この国交省の動きを建設業に当てはめてみると、足りていないのは**「標準化された考え方」と「協議の場」**の2つです。
1. コストとリスクの“標準言語”がない
多くの建設現場では、原価構成や工程リスクが、担当者の頭の中やExcelに閉じたままです。その結果として:
- 元請と協力会社で、工程リスクの認識がズレる
- 追加工事の交渉で感情論になりやすい
- 安全対策のコストが「見えないコスト」として後回しになる
内航海運のように、**「工程やリスク、必要コストを標準的に説明できる枠組み」**があるだけで、AIによるデータ分析や自動最適化は格段にやりやすくなります。
2. 中長期の視点で話せる“協議会”がない
国交省の協議会は、鉄鋼・石油・石油化学の3部会が合同で議論する仕組みになっています。これは、横断的に課題を眺める場があるということです。
建設業ではどうでしょうか。
- ゼネコン、サブコン、専門工事会社
- デベロッパー、設計事務所、施主
といったプレイヤーがいますが、「来年・再来年の現場運営をどうしていくか」を冷静に話せる場はかなり限られています。個別現場ごとの“工程会議”はあっても、業界横断での“安定・効率施工協議会”のような枠組みはまだ弱いと言わざるを得ません。
AIはデータがあれば力を発揮します。ただし、どんなルールで何を最適化するかが共有されていないと、精度の高い「協調」は生まれません。
建設業がまねすべき3つのポイント:標準化×ガイドライン×連携
内航海運の取り組みは、そのまま建設業にコピーできるわけではありませんが、考え方としてそのまま使えるポイントが3つあります。
① 「標準的な考え方」をAIの学習データにする
内航海運では、運賃・用船料の費目と算出方法を整理し、「標準的な考え方(案)」としてまとめています。建設業でも同じことをやる価値があります。
例えば:
- 工程遅延リスクを「天候・搬入制約・熟練工の人数・設計変更」の4要因に分解
- 安全リスクを「高所作業・重機接触・挟まれ・墜落」のカテゴリーに整理
- 原価構成を「労務費・材工費・間接費・安全対策費・教育費」で標準化
このように**“現場の暗黙知”を構造化しておくと、AIに学習させるラベル付きデータ**として利用しやすくなります。
AIにとって大事なのは、
「何を良しとするか」という人間側の基準が、データとして表現されているかどうか
です。標準的な考え方は、まさにそのベースラインになります。
② 「連携強化ガイドライン」を現場のAI運用ルールに落とす
協議会では、「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」も議題に上がります。これも建設業にそのまま応用できます。
建設版を考えると、例えばこんな中身になります。
- BIMモデルをどの段階で誰が更新し、どこまでを“公式情報”とするか
- AIによる工程予測が出たとき、元請・協力会社・設計がどう確認し、どう合意するか
- 安全監視AIが異常検知した場合のフロー(停止権限・連絡経路・再開判断)
AIを入れた瞬間から連携がスムーズになることはありません。
むしろ、
- 「AIがこう言ってるから」
- 「現場感覚からすると違う」
といった摩擦が増える可能性もある。だからこそ、あらかじめAIも含めた“新しいチームプレーのルール”をガイドラインとして決めることが重要です。
③ 定期的な“合同会合”としてのAIレビュー会
内航海運の合同会合は、鉄鋼・石油・石油化学の3部会が一緒に議論します。建設業でも、AIを入れた後こそ、この「合同会合」が効いてきます。
例えば:
- 毎月1回、元請・協力会社・設計・設備・安全担当が集まり、AIの予測と実績を比較
- 「なぜこの工程は予測より3日遅れたのか」「どの安全アラートが有効だったか」をデータで検証
- ガイドラインや標準的な考え方を定期的にアップデート
こうしたAIの“ふり返り会”を習慣化することが、本当の意味での生産性向上につながります。
実務に落とし込む:建設現場でのAI×連携の具体例
ここからは、建設現場で実際に使えるイメージにもう少し踏み込みます。ポイントは、「AIだけ導入する」のではなく、「業界内連携の設計」とセットにすることです。
工程管理AI × 元請・協力会社の共通指標
工程管理AIを導入するとき、単に「予測ガントチャート」を出すだけでは片手落ちです。内航海運のように、次のような「標準指標」を決めておくと連携がスムーズになります。
- クリティカルパス上の作業の“遅延許容量”(例:1日以内なら現場判断、2日を超えたら協議)
- 日々の進捗報告フォーマット(写真+数量+AI推定進捗率)
- AIが“要注意工程”と判定した場合の対応ルール
AIの予測結果を、誰が・どの粒度で・いつ見るのかを事前に決めることが、ムダな混乱を防ぎます。
安全監視AI × ガイドラインによる現場ルール化
カメラ画像やセンサーで安全監視を行うAIも増えていますが、ここでもガイドラインが効いてきます。
- アラートの種類ごとに「即停止」「警告のみ」「記録のみ」を定義
- 誤検知が起きたときの扱い(すぐに無効化せず、原因をAIベンダーと共有)
- AIの安全指標を、元請・協力会社の評価基準にどう組み込むか
こうしたルールがないと、
「AIがうるさいから切っておこう」
という最悪の運用になりかねません。国交省の協議会のように、関係者全員で合意したルールに落とし込むことが重要です。
BIM連携 × 発注者・設計者との“見える化”
内航海運の「運賃・用船料の標準的な考え方」は、コストの中身を見える化する取り組みとも言えます。建設業のBIMも、本来は同じ役割を果たせるはずです。
- 発注者に対して、工程短縮や安全対策の“コストと効果”をBIM+AIシミュレーションで説明
- 設計変更の影響を、AIが工程・コスト・安全面から即座に可視化
- 協力会社とBIMモデルを共有し、施工手順とリスクを事前に協議
「なんとなく高い」「なんとなく無理」ではなく、データを根拠に共通認識を持てる状態をつくることが、AI時代の連携強化と言えます。
次の一手:自社で何から始めるか
ここまで見てきたように、国交省の内航海運の取り組みは、建設業にとっても示唆が多い内容です。
- 業界全体で「標準的な考え方」を整理する
- 連携強化のためのガイドラインを作る
- 合同会合で継続的に改善する
これらをAI導入とセットで行うことで、単発のツール導入ではなく、組織としての生産性向上に踏み込むことができます。
もし自社で今すぐ動くなら、次の3ステップが現実的です。
- 現場の“暗黙の判断基準”を書き出し、簡易な「標準的な考え方(案)」を作る
- AI導入済み・導入予定の領域(工程、安全、原価など)ごとに、関係者を集めた“小さな協議会”を開く
- そこで決めたルールを、AI運用ガイドラインとして文書化し、次の現場にも横展開する
建設業界のAI導入ガイドのシリーズとして、このブログでは今後、各テーマ(工程管理AI、安全監視AI、BIM連携など)ごとに、より具体的な実装ステップも掘り下げていきます。
生産性向上と安全管理を「現場頼み」にせず、内航海運のように業界全体の知恵として設計し直す。その中心にAIを据えるかどうかが、令和7年度以降の建設ビジネスの分かれ目になっていくはずです。