国交省の建設総合統計(令和7年10月分)を手がかりに、建設業の人手不足と安全課題を整理し、AI・BIM活用で生産性と安全を同時に高める具体的な方向性を解説します。

建設総合統計が示す「待ったなし」の現場課題
2025年10月時点の建設総合統計(令和7年10月分)が公表されました。建設投資は依然として高い水準を維持しつつ、現場では人手不足と安全確保の両立が限界に近づいています。案件はあるのに、人も時間も足りない――多くの会社がこのジレンマに直面しています。
この記事は「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズの一環として、国土交通省の建設総合統計を土台に、なぜ今、AI導入を本気で考えないといけないのかを整理します。単なる数字の紹介ではなく、「この統計を経営や現場改善にどうつなげるか」にフォーカスします。
建設総合統計とは何か――経営判断の“共通言語”
結論から言うと、建設総合統計は**日本全国の建設活動を出来高ベースで把握した「業界の健康診断表」**です。経営層が中長期の投資判断をするうえでの、共通の物差しになっています。
出来高ベースだから見える“本当の負荷”
建設総合統計は、
- 建築着工統計調査(建築着工時点の工事費額)
- 建設工事受注動態統計調査(受注時点の工事額)
といった基礎統計をもとに、実際の工事進捗に合わせて月ごとの出来高に展開した加工統計です。つまり、「いついくら分の工事が現場で動いているか」を推計しています。
これが意味するのはシンプルで、
10月の出来高が高い=10月の現場の負荷が大きい
ということです。季節変動を考慮しながらトレンドを見ることで、
- 人員計画
- 資材調達
- 機械・重機の稼働計画
などを、勘ではなくデータで組み立てられるようになります。
毎年の遡及改定が示す「データ時代」の前提
国土交通省は、確定した建設投資額が出そろう毎年6月(4月分公表時)に、直近3年分程度を遡って統計を補正しています。さらに、基礎統計の品質改善があれば、その都度遡及改定がおこなわれます。
これは、現場サイドから見るとひとつのメッセージです。
「データは更新されるもの」「前提条件は変わるもの」という意識を持とう
AIやデジタルを活かすには、最新データを前提に**「更新を前提にした意思決定」**に切り替える必要があります。建設総合統計の仕組みそのものが、その考え方を象徴しています。
令和7年10月分から読み取る建設現場のリアル
建設総合統計の詳細な数値は政府の統計窓口で確認する必要がありますが、ここでは2025年秋時点の業界全体の傾向を前提に、現場が置かれている状況を整理します。
1. 受注はあるのに人がいない
ここ数年の傾向として、
- 公共事業・防災関連の需要
- 老朽インフラ更新
- 住宅・非住宅ともに一定の建築需要
によって、出来高ベースの建設活動は高止まりしています。一方で、
- 技能労働者の高齢化
- 若年入職者の不足
- 働き方改革による労働時間規制
が重なり、「案件はあるのに受けられない・回せない」状態が顕在化しています。
ここでAIを避け続けると、
- 利益率の低下(残業・外注・突貫対応の増加)
- 事故リスクの増加(疲弊した現場)
- 受注辞退の増加(ブランド低下)
といった形でツケが回ってきます。
2. 安全管理の負荷が組織のボトルネックに
出来高が増えれば、当然稼働する人数と時間が増えるので、
- KY活動の回数
- 安全書類の作成・確認
- 新規入場者教育
など、安全関連業務も増えます。ところが安全専任の人材は増やしにくく、**「現場代理人が全部抱え込む」**構図になりがちです。
この状態で無理に現場を増やすと、
- ヒューマンエラーによるヒヤリハット増加
- 安全書類の不備や形骸化
- 若手の育成・フォロー不足
が一気に表面化します。統計が示す出来高の高さは、そのまま安全管理の高度化ニーズだと受け止めるべきです。
統計×AI×BIMで何が変わるか:3つの活用シナリオ
ここからが本題です。建設総合統計のようなマクロデータを踏まえつつ、各社のミクロデータにAIを組み合わせると、現場はどう変えられるのか。代表的な3つのシナリオを整理します。
シナリオ1:AIによる工程管理と出来高予測の高度化
一番わかりやすい効果が出るのは、工程管理の精度向上です。
どんなAI活用が有効か
- 過去の工程表と実績データを学習させ、遅延パターンを予測
- 日々の出来高データから、月末・竣工時点の進捗を自動予測
- 天候・人員・重機稼働を考慮したシミュレーション
建設総合統計が示す「業界平均の出来高の山谷」と、自社の実績データを重ね合わせることで、
- 忙しくなる時期を前もって予測
- 早めの人員・外注手配
- 余力のある時期に教育・DX投資を計画
といった**“波を読む”経営**がしやすくなります。
現場レベルでのメリット
- 「このままのペースだと○月に工程が詰まる」ことを早期に把握
- 残業・突貫工事を減らし、安全余裕を確保
- 発注者への説明資料をデータベースで整備
工程管理にAIを入れると、ベテランの勘を見える化できるので、**若手が引き継ぎやすい“共通言語”**になります。
シナリオ2:画像認識AIによる安全監視とKYのアップデート
安全面で最も効果が出ているのが、カメラ+画像認識AIです。
具体的にできること
- ヘルメット・安全帯の未着用を自動検知
- 立入禁止エリアへの侵入をアラート
- 高所作業・重機周りの危険な接近を検出
これらを常時監視に回すことで、安全担当者の目と時間を“危険予知と教育”に振り向けられるようになります。
統計とどうつながるか
出来高が増える=人と重機が増える=接触リスクが増える、という関係は明らかです。建設総合統計で見える業界全体のピーク期ほど、AIによる安全監視の効果は大きくなります。
- 繁忙期:AIが監視、担当者はリスク評価・指導に集中
- 閑散期:AIで収集したヒヤリハット映像を教材化
という運用にすると、忙しさに左右されない安全文化をつくりやすくなります。
シナリオ3:BIM×AIで生産性と安全を一体で設計する
建築・土木を問わず、BIMや3Dモデルの活用はかなり一般的になってきましたが、「図面の3D化」で止まっている会社が多いのも事実です。
ここにAIを組み合わせると、
- 3Dモデルから数量・作業量を自動算出し、出来高予測と連携
- 施工ステップごとに安全上のリスクポイントを自動抽出
- クレーン配置や搬入経路のシミュレーションで危険パターンを可視化
といった“設計段階の安全・生産性検討”が現実味を帯びてきます。
BIMは「空間のデータベース」、建設総合統計は「市場のデータベース」、そこにAIという“頭脳”を載せるイメージです。
この三つをつなげることで、現場に入る前の段階でリスクと手戻りを潰し込むことができます。
どこからAI導入を始めるべきか:3ステップの考え方
AI導入で失敗しがちな会社は、最初から「全部入り」を狙います。現実的には、小さく試して、成果が出た領域を広げるほうが圧倒的にうまくいきます。
ステップ1:自社の「ボトルネック」を建設総合統計と照らし合わせる
まずは、
- 自社の売上・出来高の季節変動
- 忙しい時期の事故件数・ヒヤリハット件数
- 残業時間・外注比率
を洗い出し、建設総合統計のトレンドと比較してみてください。業界全体の山と、自社の山がどれくらいズレているかで、
- 受注戦略の問題なのか
- 生産性の問題なのか
- 人員配置の問題なのか
がおおまかに見えてきます。
ステップ2:インパクトが大きい“1現場1テーマ”からAIを試す
次に、最も効果が出そうなテーマを1つだけ選ぶのがおすすめです。
例:
- 安全:カメラ+画像認識でヘルメット未着用検知
- 工程:進捗写真と出来高の自動紐づけ
- 書類:AIによる安全書類・日報の自動チェック
「この現場では安全のAI」「別の現場では工程のAI」と、小さな実証を複数走らせると、現場の抵抗感も小さく、ナレッジも溜まりやすいです。
ステップ3:BIM・既存システムと連携し“点”を“線”にする
最後に、
- 既存のBIMモデル
- 原価管理システム
- 労務管理システム
とAIをつなげていきます。ここからが本格的なDXで、**個別のツール導入から「業務プロセスの再設計」**へと議論がシフトします。
この段階では、経営層が建設総合統計を前提に、
- 5年後・10年後の受注規模の目安
- 人員構成と育成方針
- AI・BIMへの投資額のレンジ
を大づかみに描いておくことが重要です。
これからの建設会社に求められる“データ視点”
建設総合統計(令和7年10月分)の公表は、単に「数字が更新された」という話ではありません。「データを前提に経営と現場を考える」時代に、建設業界も本格的に入っているというサインです。
- 業界全体の出来高は、今後もしばらく高水準が続く可能性が高い
- 人手不足と安全要求は、同時に厳しくなっていく
- だからこそ、AI・BIM・統計を組み合わせた“データ経営”が必須になる
という流れは、もう後戻りしません。
もし、いま自社でAI導入に二の足を踏んでいるなら、まずは自社の数字と建設総合統計を並べて見ることから始めてみてください。どこに負荷が集中しているかが見えれば、次に入れるべきAIの候補も自然と絞れてきます。
シリーズ全体では、
- 画像認識による安全監視の具体的な導入ステップ
- BIMとAIを組み合わせた工程最適化の事例
- 熟練技術のデジタル継承のやり方
などを順番に扱っていきます。自社の数字に向き合いながら、「どのテーマから試すか」を考える材料として、今回の建設総合統計をうまく使ってもらえればと思います。