4割の自治体がICT・AI活用を後押し:建設会社が今すぐ取るべき打ち手

建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理By 3L3C

都道府県・政令市の4割が建設会社のICT活用を助成。入契法改正を追い風に、AIによる生産性向上と安全管理強化を進める実践ロードマップを解説します。

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はじめに:いま、公共工事の「DX待ったなし」局面に

2025/11/28に報じられた調査によると、全国の都道府県・政令市の約4割が、建設会社のICT活用を助成・支援する制度を整備しています。入札契約適正化法(入契法)の改正から1年弱で、ここまで動きが広がったのは、建設業界の生産性向上と人手不足対策が、もはや待ったなしの課題になっていることの裏返しと言えます。

本記事はシリーズ「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」の一環として、

  • ICT・AI活用を巡る最新の制度動向
  • 助成制度を踏まえた、現場レベルでのAI活用の具体策
  • 中小建設会社でもムリなく始められるステップ

を整理し、実務担当者が来年度の予算・投資計画にそのまま使えるレベルまで落とし込みます。


1. 4割の自治体がICT活用を助成:何が起きているのか

1-1. 入契法改正がもたらした構造変化

2024年末の入札契約適正化法(入契法)改正により、公共工事発注者には、

「受注者によるICTの活用を促進するための助成・指導等に努めること」

が努力義務として課されました。これを受け、2025年度にかけて多くの自治体が以下のような施策を整備しています。

  • ICT施工やBIM/CIMを活用した工事への入札加点
  • ドローン・3Dスキャナ・AI解析ソフト等の導入費用への補助
  • 「ICT活用工事」の指定や、総合評価落札方式での評価項目化
  • 現場代理人・監理技術者向けの研修やeラーニングの提供

調査では、都道府県・政令市の39%に助成制度が存在し、特に九州・沖縄、北海道・東北ブロックで制度の普及率が高いとされています。

1-2. なぜ地方ブロックで先行しているのか

地方ブロックでICT助成が進んでいる背景には、

  • 若年層の流出による深刻な技術者不足
  • 広域・山間部など、遠隔監視・遠隔臨場のニーズの高さ
  • 災害復旧やインフラ維持管理の業務量増加

があります。単なる「生産性向上」ではなく、「ICT・AIを使わないと仕事が回らない」レベルに達しつつあるため、自治体側も背中を押さざるを得ない状況です。


2. 「ICT活用」と「AI活用」の関係:何から始めるべきか

2-1. まずは土台としてのICT、次にAI

助成制度の多くは「ICT施工」「BIM/CIM」「遠隔臨場」などを対象にしていますが、これらは**AI活用の“土台”**になります。

ICT活用の代表例:

  • ドローンによる出来形・進捗の写真・点群計測
  • 3Dレーザースキャナによる地形・構造物の計測
  • BIM/CIMモデルを用いた設計・施工計画
  • ウェアラブルカメラ等を使った遠隔臨場

これらで取得したデータを、次のステップでAIにかけることで一気に価値が跳ね上がるのが、最近のトレンドです。

2-2. AIがもたらす追加価値

ICTで“デジタル化”された現場データにAIを組み合わせると、具体的には次のような効果が得られます。

  • 画像認識AIによるヘルメット未着用・立入禁止エリア侵入の自動検知
  • ドローン画像+AIでの切土法面の変状・クラック自動検出
  • BIM/CIMモデルと進捗写真の照合による出来高自動カウント
  • センサー+AIによる重機の稼働分析と最適な工程・配置の提案

つまり、助成制度を利用してICTの“器”を整えておけば、少しの追加投資でAIによる生産性向上と安全管理強化に一気に踏み出せる構図になっています。


3. 助成制度を最大限に活かしたAI導入ロードマップ

ここからは、特に中小〜中堅の建設会社を想定して、**「来年度から3年でここまで進める」**という現実的なロードマップを示します。

3-1. フェーズ1:助成を活用した「測る」基盤づくり(1年目)

1年目のゴールは、現場データをデジタルで「測れる」状態を作ることです。

優先して導入したいICT機器・システム

  • ドローン(写真測量用)+クラウド解析サービス
  • 3Dレーザースキャナ(もしくはレンタル活用)
  • 遠隔臨場用のウェアラブルカメラ・通信回線
  • 工程管理・出来高管理のクラウドソフト

このフェーズは、自治体の助成制度と非常に相性が良く、

  • 機器購入費・リース料の一部補助
  • ICT施工の試行工事としての評価加点

を組み合わせることで、実質的な負担を数割レベルまで圧縮できます。

3-2. フェーズ2:AIを使った「見る・気づく」の自動化(2年目)

基盤が整ったら、2年目以降はAI活用によって「人が見て判断していたこと」を自動化していきます。

具体的なAI活用の入り口例

  • 現場カメラ映像+AIによる安全監視
    • ヘルメット・安全帯の着用検知
    • 重機と作業員の接近アラート
  • ドローン写真+AIでの出来形・数量検出
    • 盛土量の自動算出
    • 進捗の自動比較(前回データとの差分)
  • 画像認識AI+BIM/CIMモデル連携
    • 施工済み部位を自動的にモデル上で着色
    • 未施工・要確認箇所の自動ハイライト

この段階では、すべてを自社開発しようとしないことがポイントです。国内外のクラウドサービスやSaaS型の建設向けAIツールを組み合わせ、

  • 月額課金で小さく始める
  • 特定現場でのPoC(試験導入)に絞る
  • 成果が出たパターンだけを標準化

といったスタンスで進めると、現場からの反発も抑えつつ、実感ベースの成果を作りやすくなります。

3-3. フェーズ3:データを活かした「予測・最適化」へ(3年目)

AI導入が進むと、各現場データが蓄積していきます。3年目以降はこのデータを横断的に活用し、

  • 工種別・現場条件別の生産性ベンチマークの見える化
  • 「この条件なら、この工程パターンが最適」といった工程最適化AI
  • 熟練者の判断ロジックをデジタル化したナレッジベース

に発展させていくことができます。

このフェーズまで来ると、単なる「ICT活用で効率化」から一歩進み、

会社全体の施工力・安全水準を、データとAIで底上げする

というレベルに到達します。


4. 助成制度を取り逃さないための3つのチェックポイント

せっかく制度が整ってきても、「存在を知らなかった」「申請のタイミングを逃した」では意味がありません。ここでは、実務担当者として押さえておくべきポイントを整理します。

4-1. 情報源を「人任せ」にしない

  • 所属する建設業協会・商工会議所の情報だけに頼らず、
    • 自治体の入札・契約関連のページ
    • ICT施工・建設DX関連の要綱・要領 を月1回は自分でチェックする体制にしておく
  • 社内で「ICT・AI担当」を明確に決め、情報収集と社内展開を役割として付与

4-2. 「対象経費」と「スケジュール」を早期に確認

助成制度には、

  • 補助対象となる経費(機器購入費、リース料、ソフト利用料、研修費など)
  • 補助率・上限額
  • 申請〜採択〜実績報告までのスケジュール

が細かく決められています。年度当初に確認し、会社の投資計画と突き合わせることで、

  • 「補助対象期間に間に合うよう発注タイミングを調整」
  • 「複数現場のICT投資を束ねて申請」

といった打ち手が取りやすくなります。

4-3. 「安全・品質・生産性」の3点を提案書に盛り込む

助成申請や総合評価の技術提案では、

  • 安全管理への寄与(ヒューマンエラー低減、ヒヤリハットの削減)
  • 品質確保(出来形の客観的な記録、トレーサビリティ)
  • 生産性向上(省人化、工期短縮、残業時間削減)

セットで説明することが、発注者からの評価を得るうえで有効です。

AI活用を絡める場合は、

「従来は人が目視・手計算で行っていた作業をAIが代替し、人は判断やリスクの高い作業に集中できるようにする」

という整理にすると、現場の納得感も高まりやすくなります。


5. AI導入でつまずかないための注意点と社内体制づくり

最後に、実際に多くの建設会社が直面している“落とし穴”と、それを避けるための考え方をまとめます。

5-1. 「道具先行」で現場が疲弊しないようにする

  • 新しいICT・AIツールを次々と現場に押し付けると、
    • 入力作業が増える
    • 操作が難しい
    • 既存システムとの二重管理になる といった不満が必ず出ます。
  • 1現場で確実に成功パターンを作り、それを水平展開する方が結果的に早道です。

5-2. 人材育成は「AIの専門家」より「現場×デジタルのハイブリッド」

建設会社が社内で育成すべきなのは、

  • 現場経験があり、工程・安全の勘所を理解している
  • デジタルツールへの抵抗感が少ない
  • 若手や協力会社にも教えることができる

といった**“現場DXリーダー”的人材**です。AIのアルゴリズム開発やプログラミングは外部に任せても、

  • 「この現場では何をデジタル化・AI化すべきか」
  • 「AIの結果をどう現場ルールに落とし込むか」

を判断できる人材がいなければ、投資が空回りします。

5-3. 安全管理にAIを使うときのポイント

AIを安全監視に用いる際は、

  • 「AIが検知したらすぐ罰する」ではなく、
    • まずは**ヒヤリハットの“見える化ツール”**として運用
    • 危険行動の多い時間帯・作業内容・エリアを分析
  • 労務管理や評価に直結させる前に、
    • 現場での説明会
    • 労基法や個人情報保護の観点の確認

を丁寧に行うことが重要です。AIはあくまで安全文化を育てるための支援ツールであり、「監視カメラ」と捉えられると、現場の反発を招きかねません。


おわりに:2026年度までの2年が勝負どころ

入契法改正をきっかけに、自治体のICT・AI活用支援は確実に拡大しています。都道府県・政令市の4割がすでに何らかの助成制度を持つ状況は、建設会社にとって

「いつかDX」ではなく「今すぐ、最初の一歩を踏み出す」

ための絶好のタイミングと言えます。

本シリーズ「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」では、今後、

  • 画像認識AIを使った具体的な安全監視事例
  • BIM/CIMとAIを連携させた工程管理・出来高管理
  • 中小企業が取り組める、熟練技術のデジタル継承

などをさらに掘り下げていきます。自社の地域でどのような助成制度が用意されているかをまず確認し、**「1現場でいいから、AIを絡めたICT活用をやってみる」**ところから始めてみてください。

2〜3年後、「あのとき一歩を踏み出していれば」とならないように、今日から動き出すことが、これからの建設会社の競争力を左右します。