米国で実稼働中の自律型ショベル事例から、AI土工が生産性向上と安全管理、人手不足解消にどう効くかを日本の建設現場目線で解説します。
自律型ショベルは「人手不足と安全問題」に直球で効く
いま米国のある現場で、AI搭載のショベルが6万5,000立方ヤード(約5万立方メートル)以上の土砂をすでに掘削し終えています。オペレーターは運転席にいません。その横で人が運転するダンプトラックが次々と土を受け取り、工程は止まらないまま進んでいる。
この事例は、Waymo出身者が立ち上げたスタートアップ Bedrock Robotics と大手ゼネコン Sundt Construction の共同プロジェクトです。130エーカーの製造工場造成工事で、AI自律運転のショベルが本格稼働しています。
日本でも建設業のキーワードは「人手不足」「技能伝承」「安全管理の高度化」。この米国の事例は、AIと自律施工が単なる話題ではなく、実際に工程と安全、そして採算に効く“道具”になり始めていることを示しています。
この記事では、「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズの一環として、このBedrockの事例を軸に、
- 自律型ショベルが現場でどう使われているのか
- 何が生産性・安全性に効いているのか
- 日本の土木・建築現場でどう応用できるのか
- 導入を検討する企業が押さえるべきポイント
を、現場目線で整理します。
1. Bedrock Roboticsの自律ショベルは何をしているのか
結論から言うと、Bedrockの自律ショベルは「既存の施工フローにそのまま割り込まずに入れるAIオペレーター」です。
既存の段取りを変えない運用
米国南西部のエネルギー関連製造工場の造成現場では、次のような段取りで運用されています。
- 現場に土砂・岩をストックパイル状に集積
- 自律型ショベルがその山から掘削
- 人が運転するダンプトラックが所定位置に寄せる
- 自律ショベルがダンプに積み込み
- ダンプが運搬し、別の人員が整地
ポイントは、
- ダンプは人が運転している
- ショベルだけをAI・自律運転化している
という構成です。つまり、全てをフル自動化するのではなく、既存の施工フローに“AIオペレーター付きショベル”を組み込んでいるだけ。これが現場への受け入れやすさにつながっています。
複数メーカー・複数サイズに後付け
Bedrockの技術は、Cat(キャタピラー)など複数メーカーのショベルに後付けキットとして搭載されています。
- 対応クラス:20〜80トンクラスの油圧ショベル
- 用途:大規模土工(造成・掘削)
日本で言えば、ICT建機の「マシンガイダンス」「マシンコントロール」が広がった延長線上で、オペレーションそのものまでAIが肩代わりしているイメージに近いです。
2. AI自律ショベルがもたらす3つの効果
BedrockとSundtの現場から見えるメリットは、大きく3つに整理できます。
2-1. 労働力不足への直接的な解決策
SundtのシニアPM Dan Green氏は、このプロジェクトで約70万立方ヤードもの土砂・岩を動かす計画だと話しています。そのうち、Bedrockの自律ショベルが担うのは現時点で全体利用の約10%。
10%と聞くと小さく見えますが、次のように考えると意味が変わります。
- 10%分のショベルオペレーターを追加採用せずに確保したのと同じ
- 夜間や早朝など、人員を増やしにくい時間帯にも安定した稼働が可能
人材が集まりにくい地方・過酷環境・長期プロジェクトでは、「1人分のAIオペレーター」を何台も配備できるインパクトがあります。
「多くの工事が、人手不足が理由でそもそも受注できない/着工できない。そこに自律機械は“事業拡大の余地”をつくる」(Bedrock CEO Boris Sofman)
日本でも地方の造成・インフラ更新・再エネ案件はこの構図に近く、自律建機は「人手不足で諦めていた仕事を取れるようにする」ための1つのカードになります。
2-2. 熟練オペレーターの“共通のうまさ”をAIに落とし込む
Sundtは、BedrockのAIを現場にフィットさせる過程で、複数のベテランオペレーターの動きを学習データにしていると話しています。
- 何人もの熟練オペの掘削・積込みパターンをAIに学ばせる
- AIが「共通して効率の良い動き」「安全マージンの取り方」を抽出
- それを1つの自律ショベルに反映
Green氏いわく、
「複数のオペレーターの知見を“1人分のスーパーオペレーター”に凝縮しているようなもの」
これは日本で課題になっている技能継承・暗黙知の形式知化と直結します。人材が減る中で「うまい人の動き」をどう残すか。AI自律建機は、
- 熟練者の動きをログとして蓄積
- パターンをAIが抽出
- 現場ごとに最適化して再利用
という形で、“デジタル職長”のような役割を担える可能性があります。
2-3. 安全性・工程管理の底上げ
Bedrockのシステムは、LiDARとGPSでショベルの位置・周囲状況を高精度に把握します。これが安全性と工程管理の両方に効きます。
- 周辺の人・ダンプ・構造物との距離を常時計測
- バケットの動き・旋回範囲を制御
- 危険域への侵入・接触リスクを低減
人間のオペレーターは疲労や注意散漫の影響をどうしても受けますが、センサーとAIは24時間同じ精度で監視できます。日本の労災統計でも重機接触災害は根強く残っており、「人+AI」「人+自律建機」という組み合わせは、これを減らす有力なアプローチです。
また、動いた土量をセンサー・位置情報で正確に把握できれば、
- 日々の出来高・土量の自動記録
- 進捗管理・出来形管理の半自動化
- BIM/CIMや工程シミュレーションへのフィードバック
といったデータ連携型の施工管理にもつながります。
3. 日本の建設現場での応用シナリオ
自律型ショベルは、すぐに全現場で導入できるものではありません。ただ、現実的に効果が出やすいシーンはかなりはっきりしています。
3-1. 大規模土工・造成・再エネサイト
Bedrockの事例と同様、以下のような現場が“相性の良い第一候補”です。
- 大規模造成工事(物流倉庫・工業団地・データセンター等)
- 太陽光・風力など再エネ発電所の建設
- 道路・空港・港湾の大規模土工
共通点は、
- 土量が多く、同じパターンの作業が長期間続く
- 人口が少ないエリアで人材確保が難しい
- ICT建機・3D起工測量など、デジタル施工に前向き
というところです。まずは、
- 自律ショベル:ストックパイルからの掘削・ダンプ積込み
- 人:ダンプ運転・法面整形・仕上げ
のように役割分担をする構成が、導入しやすい形になるでしょう。
3-2. 24時間稼働が難しい現場の「夜間班」として
日本では騒音規制や近隣への配慮もあり24時間フル稼働は難しいですが、それでも夜間や早朝に限定的に稼働させる価値はあります。
- 日中:人オペ主体+自律機サポート
- 夜間:自律ショベル主体でストックパイル整理や土砂移動
のように使えば、
- 総工期の短縮
- 重機稼働率の向上
- 人の残業・長時間労働の抑制
が狙えます。特にインフラ更新や線路近接工事など、限られた作業時間内にどこまで進められるかが勝負の現場で有効です。
3-3. AI×安全管理システムとの連携
このシリーズで扱ってきたように、建設現場ではすでに、
- 画像認識による危険行動検知
- ウェアラブルセンサーによる作業員の位置・バイタル管理
- BIM/CIMと連動したリスクマップ
といった安全管理のAI活用が広がりつつあります。
自律ショベルは、これらと組み合わせることで、
- 「人のいるエリア」に近づかない自律経路計画
- 危険域侵入時の自動減速・停止
- 事故ヒヤリ・ハットのデータ蓄積と再発防止策の自動提案
といった**“安全も自動制御する土工マネジメント”**に近づいていきます。
4. 導入を検討する企業が押さえるべき5つのポイント
AIや自律建機の導入で、多くの企業がつまずくパターンはだいたい共通しています。経験上、「ここだけは押さえておいた方がいい」と感じるポイントを5つに絞ります。
4-1. 「全自動」を目指さず、部分自動化から始める
Bedrockのケースでも、全てのショベルを一気に自律化しているわけではありません。全土工の約10%を担う位置づけで、現場の1ツールとして動かしているだけです。
日本でも最初から、
- 自律ショベル1台+人オペ数台
- 小さめの現場、あるいは1エリア限定
といったスモールスタートが現実的です。「最初から完璧に自動化」ではなく、“1人分のオペレーターをAIに任せてみる”ぐらいのスコープがちょうどいいです。
4-2. 現場のベテランを“教師”として巻き込む
AIの性能は、学習データの質で決まります。Bedrockも、
- 経験豊富なオペレーター
- 複数人の動き・癖
を学ばせることで、「現場で通用するAIオペレーター」をつくっています。
日本企業がやるべきことも同じで、
- ベテランオペをAI導入プロジェクトの中核メンバーにする
- 彼らの動きを解説付きで記録し、開発側に渡す
- 現場でのフィードバックサイクルに継続的に関わってもらう
ことが、“使えるAI”と“絵に描いた餅”の分岐点になります。
4-3. 安全ルールと運用フローを再設計する
自律建機の導入は、安全ルールのアップデートを伴います。
- 自律機が動く範囲の明確化と立入禁止エリアの設定
- ダンプや歩行者の航路計画の見直し
- 異常時の手動介入手順(誰が、どこから止めるか)
を、事前に紙と図面で設計することが欠かせません。「何となくAIを入れた」状態で運用を始めるのがいちばん危ないパターンです。
4-4. データ連携を前提にしたICT基盤づくり
自律ショベルは、
- LiDAR点群
- 高精度GPS位置情報
- 稼働ログ・バケットの動き
といった大量のデータを生み出します。これをBIM/CIMモデルや工程管理システムと結ぶほど、投資回収のスピードは上がります。
- 3D起工測量・出来形計測をすでに実施しているか
- 社内でBIM/CIMデータを扱える人材がいるか
- クラウド上で現場データを一元管理できているか
といった観点で、自社の“データ受け皿”を一度棚卸しておくと良いです。
4-5. パートナー選び:建機メーカー+AIベンダー+施工会社
Bedrockも、
- 自律走行技術(AIスタートアップ)
- 重機(建機メーカー)
- 施工(ゼネコン・土木会社)
が組んで初めて成り立っています。日本でも、
- ICT建機に強い建機メーカー・ディーラー
- AI・画像認識・ロボティクスのベンダー
- 実工事でPoCを回してくれる発注者・協力会社
の三位一体の体制を組めるかどうかが勝負どころです。
5. これから3年で「AI土工」をどう自社に取り込むか
自律ショベルは、まだ“常識”ではありません。ただし、米国のように実工事で商用レベルの稼働実績が出始めた今、日本でも3年〜5年のスパンで普及フェーズに入ると考える方が現実的です。
このシリーズ「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」全体で伝えたいのは、AIを特別視しすぎないことです。自律ショベルも、
- 人手不足を埋める
- 熟練技術を継承する
- 安全リスクを減らす
- 工程管理をデータで改善する
ための**“一つの道具”**にすぎません。
もし自社で本格的に検討するなら、まずは:
- 「どの現場・どの工程」で人手不足や安全リスクが特に深刻か整理する
- その中から、自律建機やAIで置き換えやすい作業をリストアップする
- パートナー候補(建機・AIベンダー・大学・スタートアップ)と小さな実証から始める
という3ステップをおすすめします。
AIが運転するショベルを、現場の誰もが“普通の道具”として扱える日が来るかどうかは、ここ数年の一手にかかっています。自社の次の一歩を、そろそろ具体的に描いてみてはいかがでしょうか。