国交省の「脱炭素都市づくり大賞」を手がかりに、GX時代の都市開発で建設会社がAIをどう使えば生産性と安全性を高められるのかを具体的に整理します。

脱炭素都市づくり大賞は、現場DXの「答え合わせ」だ
建設業の現場で「何からAIを入れればいいのか分からない」という声をよく聞きます。機械学習、画像認識、BIM連携…言葉だけが先行して、実際の都市開発・まちづくりにどう結びつくのかが見えにくいからです。
そんな中で、国土交通省・環境省が共同で実施している**「脱炭素都市づくり大賞」**は、良い“答え合わせの場”になっています。第2回(令和7年度)の結果を見ると、どの案件もGX(グリーントランスフォーメーション)とデジタル活用を当たり前の前提として組み込んでおり、建設業のAI導入を考えるうえでヒントの宝庫です。
この記事では、受賞事例をベースにしながら、
- まちづくりGXとAIがどう関係するのか
- 建設現場の生産性向上・安全管理にどう落とし込めるのか
- 中小ゼネコン・サブコンでも現実的に取り組めるステップ
を整理します。「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズの一つとして、政策動向と現場実務をつなぐ視点でまとめました。
まちづくりGXが示す、建設DX・AI活用の方向性
脱炭素都市づくり大賞は、GX時代の都市開発の“標準仕様”を示している賞です。
国交省の発表でも触れられている通り、世界の温室効果ガス排出の約7割、エネルギー需要の6割超は都市活動が占めています。日本が2030年度46%削減、2050年ネットゼロを実現するには、建築・土木・インフラを含む「都市づくり」そのものを変える必要があります。
ここで重要なのが、GXとDXがセットになっている点です。
- エネルギー利用効率化 → センサー、AIによる制御・予測が必須
- 移動の脱炭素化 → 交通データ、需要予測、シミュレーション
- 緑地創出・ネイチャーポジティブ → ドローン・画像解析によるモニタリング
つまり、GXを本気でやろうとすると、建設プロセスから運用・維持管理まで、どこかで必ずAIやデジタル技術に踏み込まざるを得ない構造になっています。
GXを掲げる都市開発プロジェクトで、“紙と勘と根性”だけで完結している仕事は、もはやほとんど存在しません。
受賞プロジェクトから読み解く「AIが入りやすいポイント」
第2回脱炭素都市づくり大賞では、以下のような事業が表彰されています(名称のみ抜粋)。
- 国土交通大臣賞:TAKANAWA GATEWAY CITY
- 環境大臣賞:温故創新の森 NOVARE
- 特別賞:糸プロジェクト ほか
- 小規模都市チャレンジモデル:PPAによる広野町マイクログリッド構築事業
- 地方公共団体の取り組み:箕輪町庁舎周辺事業『みのわサスティナブルエネルギーPG』
公表資料にはAIという言葉は前面には出てきませんが、プロジェクトの性質を見れば、裏側でデジタル・AIが動いている場面がかなり想像できます。
1. 大規模複合開発(TAKANAWA GATEWAY CITY)
ターミナル駅直結の大規模開発では、
- 膨大な工程管理
- 多数の協力会社
- 交通・物流・周辺住民への影響
といった複雑さを抱えます。
ここで機能するのが、
- BIM+工程シミュレーション:工程の遅延リスク・資材搬入計画をAIで最適化
- 画像認識による安全監視:重機とのニアミス、ヘルメット未着用検知
- エネルギー設計・運用のシミュレーション:完成後のビル群のエネルギー需要をAIで予測
GXを掲げる以上、「CO₂排出が少ないだけでなく、ムダな待ち時間ややり直しが少ない現場運営」が求められます。ここにAIの価値が直結します。
2. ネイチャーポジティブ・環境共生型開発(温故創新の森 NOVARE)
環境大臣賞に選ばれたプロジェクトのように、森や水辺と共生する開発では、
- 生物多様性の保全
- 緑地の質の維持
- 雨水・地下水の管理
が重要テーマになります。この領域は、リモートセンシング+AI解析との相性が非常に良いです。
- ドローン画像をAIで解析し、植生の変化を定量把握
- センサーで土壌水分・水位を常時計測し、AIで異常検知
- 施工中の濁水流出や土砂崩れリスクを予測
「環境にやさしい」ことを定性的なスローガンにとどめず、データで説明し、継続的にチューニングする。そのための基盤としてAIが使われていきます。
3. 地方・小規模都市のエネルギー事業(広野町・箕輪町など)
PPAによるマイクログリッドや、町庁舎周辺のエネルギープロジェクトのようなスキームは、地方自治体と民間企業が連携するケースが増えています。
ここでのAI活用ポイントは、
- 太陽光発電や蓄電池の出力予測
- 需要の平準化のためのデマンドレスポンス制御
- 気象データを用いたレジリエンス評価
といったエネルギーマネジメント領域です。
施工フェーズでも、
- 施工進捗をドローンで定期撮影しAIで出来形判定
- 遠隔地からの遠隔立会い・リモート検査
といった手法がコスト・人手不足対策として使いやすい領域です。
現場目線で整理する「GX×AI」の4つの活用テーマ
受賞事例を眺めているだけでは、「すごいけど、うちには関係ない」で終わってしまいます。そこで、建設会社・設計事務所・設備会社が今すぐ検討できるAI活用テーマを4つに整理してみます。
① 工程管理の最適化:遅延・ムダを減らして“隠れCO₂”も削減
生産性向上と脱炭素は、本来セットです。段取りの悪さは、
- 余計な重機稼働
- 追加の搬入・搬出
- やり直し工事
など、見えにくいCO₂排出増につながります。
AI×工程管理の代表例
- 過去現場の工程データを学習させ、遅延リスクを早期に可視化
- BIMモデルと連携し、資材・人員の配置計画を自動提案
- 天候・交通情報と連動した搬入スケジュール最適化
「AIがすべて決めてくれる」というよりは、
職長や所長が持っている“勘”を、データで後押ししてくれるツール
として捉えると現場に受け入れられやすくなります。
② 画像認識による安全管理:ヒヤリハットをデータ化する
GX・脱炭素以前に、現場で最優先なのは安全です。とはいえ、紙のKY・巡視だけではヒヤリハットは記録されず、“経験者の頭の中だけ”に蓄積されがちです。
画像認識AIでできること
- カメラ映像からのヘルメット・安全帯未着用検知
- 危険エリアへの立ち入り検知、重機との接触リスク検出
- 足場・仮設構造物の変形・崩れの兆候検知
これを、まちづくりGXプロジェクトのような長期・大規模工事で継続的に回すと、
- 「どの工程・どの時間帯にヒヤリハットが多いか」が見える
- 安全対策のPDCAがデータベース化される
結果として、安全教育の質が上がり、属人化が薄まるのが大きなメリットです。
③ BIM・シミュレーションと連動した脱炭素設計
GXを掲げる都市開発では、設計段階からエネルギー性能・CO₂排出量を数値で比較できることが求められます。
- 断熱・設備仕様の組合せで、エネルギー消費をAIで予測
- 日射・風環境シミュレーションで、パッシブ設計の効果を定量評価
- タウン全体でのモビリティパターンをモデル化し、交通起因の排出量を試算
BIMモデルがあれば、そこにAIを組み合わせて「設計案AとBのどちらがライフサイクルCO₂が少ないか」といった検討を短時間で回せます。
現場目線で見ると、
- 施工中の仕様変更リスクを減らす
- 完成後のトラブル(暑い・寒い・光が眩しいなど)を抑える
ことにもつながるので、クレーム・やり直し工事の削減=生産性向上にも直結します。
④ 熟練技術のデジタル継承:若手不足時代の“保険”
脱炭素都市づくりは、単発のイベントではなく、今後数十年続くテーマです。一方で、建設業は
- 技能者の高齢化
- 若手の入職減少
という構造的な人手不足に直面しています。
ここでAIが効いてくるのが熟練技術のデジタル継承です。
- ベテランの施工手順を動画+センサーで記録し、AIでパターン化
- 品質検査の合否判断基準をモデル化し、若手の自己チェックを支援
- 施工データと出来形データを紐付け、「上手なチームのやり方」を可視化
GXプロジェクトで使ったノウハウを“現場の中だけ”で終わらせず、会社としての資産に変えていく視点が重要です。
中小企業でも始められるGX・AI導入のステップ
「大臣賞を取るような大規模案件じゃないと意味がない」と思う必要はありません。むしろ、中小の建設会社ほど、一つの現場を“次の仕事につながる実験の場”として使う発想が有効です。
ステップ1:自社の仕事を「GX視点」で棚卸しする
まずは、今関わっている仕事の中で、
- 省エネ建築・ZEB/ZEH案件
- 太陽光・蓄電池・EV充電設備などのエネルギー関連
- 緑地整備・河川・治山・環境配慮型工事
といったGX要素のある案件を洗い出します。そこがAI導入の“実験フィールド”候補になります。
ステップ2:現場のボトルネックを1つだけ決める
AIで“全部よくする”のは失敗パターンです。
- 安全
- 工程
- 品質
- 設計との情報連携
などの中から、1つだけ最優先テーマを決めることが大切です。
例:
- 「太陽光発電所の造成工事で、出来形確認に時間がかかり過ぎている」
- 「庁舎改修工事で、夜間作業の安全確保が不安」
ステップ3:小さなAIツールを試す
最近は、
- カメラ+クラウドAIでの安全監視
- 写真から出来形を判定するクラウドサービス
- Excelデータを読み込んで工程リスクを出すツール
など、SaaS型で小さく始められるサービスが増えています。まずは1現場・1テーマで試し、
- どこまで効果があったか
- 現場の負担はどうだったか
- 社内の誰が“使いこなせそうか”
を検証します。
ステップ4:GX・脱炭素のストーリーとして発信する
ここが意外と重要なポイントです。AI導入の成果は、
- 「安全指標の改善」
- 「工期短縮」
- 「やり直し工事の削減」
といった数字だけでなく、脱炭素・GXの文脈とセットで語ると、
- 自治体の公募案件
- 脱炭素系の補助金・支援策
- 大手ゼネコンとのJV・協業
への“名刺代わり”になります。
脱炭素都市づくり大賞のような表彰制度にチャレンジするのも、社内外への強いメッセージになります。
これからの「安全で生産的な現場」はGX・AI前提で設計される
ここまで見てきた通り、脱炭素都市づくり大賞の受賞案件は、
- エネルギー
- モビリティ
- 緑地・環境
- 地方都市のエネルギー自立
といったテーマでGXを実現しつつ、その裏側で必然的にDX・AIが動いている世界を示しています。
建設業界にとって、これはプレッシャーであると同時に、大きなチャンスでもあります。
GXを本気でやるプロジェクトほど、AIとデジタルの力なしには成立しなくなる。
だからこそ、いまのうちから、
- 小さくてもいいのでAI導入の成功体験をつくる
- 現場の安全管理・工程管理をデジタル前提に切り替える
- 熟練者の技術をデータとして残し、次世代に渡す
という流れを作っておく価値があります。
この「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズでは、今後、
- 具体的な画像認識AIの導入ステップ
- BIMとAIを組み合わせた工程シミュレーションの事例
- 中小企業が取り組みやすい安全管理DXのパターン
なども掘り下げていきます。
自社の次の現場を、「GX×AIのモデル現場」に変えるきっかけとして、まずは一つ、取り組めそうなテーマを社内で議論してみてください。そこから、次の10年の競争力が生まれてきます。