AI×CLT×BIMで変わる公共施設建設:「とびUO!プール」が示す現場の未来

建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理By 3L3C

富山県魚津市の「とびUO!プール」を題材に、CLT×BIM×AIで公共施設建設の設計・施工・安全管理をどう変えられるかを具体的に解説します。

AI施工管理BIM活用CLT構造公共施設建設建設DX安全管理工程管理
Share:

富山県魚津市の新しい室内温水プール「とびUO!プール」には、国内最大級クラスのCLT梁が19本並ぶ。最大スパン25m、積雪荷重1.5mという厳しい条件を木と鋼の合成梁でクリアしたプロジェクトだ。

多くの人は「すごい木造プールができた」で話を終わらせがちだけど、建設業界の目線で見ると、この案件はAI・BIM・施工管理DXがどこまで現場を変え得るかを考えるうえで絶好の教材になっている。

この記事では、とびUO!プールのCLT架構のポイントを整理しながら、

  • CLT×BIM×AIで何が効率化できるのか
  • 大型公共施設の工程・安全管理をどう変えられるのか
  • 自社でAI導入を進めるときの具体的なステップ

を、現場寄りの目線で解説する。


CLT大空間が突きつけた「設計・施工の難しさ」とAIの入りどころ

とびUO!プールの特徴は、3mピッチで並ぶ大断面CLT梁が、25mスパンの無柱空間を支えていることだ。ヒノキCLTとT字鋼を組み合わせた合成梁で、積雪1.5mに耐える構造を実現している。

これだけ聞くと「高度な構造設計の話」で終わってしまうが、実際のプロセスを分解すると、AIとBIMが入り込めるポイントがはっきり見えてくる。

どこが難しかったのか?

記事から読み取れる、このプロジェクト特有の難しさを整理すると:

  • 20m超の大スパン木造で、継ぎ手の性能確保が難しい
  • 1.5mの積雪荷重を考慮した構造検討が必要
  • 次亜塩素酸を含むプール室内環境への耐久性検証
  • 37mクラスの長大梁を4分割して製作・輸送・架設
  • 木と鋼をビス・ボルトで組み合わせる新しいディテール

これらは典型的な「設計と施工の試行錯誤」が発生しやすい領域だ。従来は担当者の頭の中とCAD、Excelで回してきたが、ここにこそAI+BIMの価値がある。

CLT構造でAIが貢献できる代表的な場面

CLTや合成梁を扱うプロジェクトで、AIが効くポイントは主に次の4つだと考えている。

  1. 構造検討のパターン探索

    • BIMモデル+構造解析データを学習させ、スパン・荷重条件から梁成・断面構成の候補を自動提案
    • 継ぎ手位置や鋼板厚などのパラメータを変化させた多数ケースを自動計算し、「安全かつ材料使用量が少ない」案をランキング表示
  2. 接合ディテールのナレッジ化

    • 過去案件のCLT接合部ディテール、ビス・ボルト配置、破壊モードをデータベース化
    • AIが類似案件を検索し、「この条件ならこのディテールが実績あり」とレコメンド
  3. 製作・輸送の制約を加味した部材分割計画

    • 工場設備サイズ、搬送トラックの積載制限、架設クレーン能力などの制約条件を入力
    • AIが「最適な分割数と継ぎ手位置」を計算し、BIMに反映
  4. 環境条件(積雪・湿気・薬品)と耐久性のリスク評価

    • 気象データ、プール環境の腐食事故データを学習させ、必要な保護仕様や点検周期を提案

とびUO!プールでは、構造設計者が大学研究も活用しながら自ら解を導いているが、同じレベルの検討を毎回ゼロから人力で回すのは、どう考えても非現実的だ。

だからこそ、今のうちに自社案件のBIM・構造・施工データを整理し、AIに学習させる土台を作っておいたほうがいい。


BIM×CLT×AIで変わる「設計〜製作〜施工」のワークフロー

CLTのような木質大型部材は、BIMモデルを中心に情報を一元管理しないと破綻しやすい。そこにAIを組み合わせると、ワークフローは次のように変わる。

1. 基本設計フェーズ:BIM+AIで構造と意匠の両立を探る

とびUO!プールでは、設計者が「単純梁を連続させた木に包まれる空間」をイメージし、そこから構造検討に入っている。

ここでAIを使うなら:

  • 3Dの意匠BIMモデルに対して、AIが自動で仮想梁を配置
  • 必要スパン・荷重条件から、CLT厚さ・鋼材断面・梁成の候補を自動計算
  • 「意匠的に見せたい梁」「隠してよい梁」を指定すると、AIが納まりを調整

こうして、意匠と構造の間を何十回も往復する作業を、数クリックに圧縮できる可能性がある。

2. 実施設計フェーズ:ディテールと数量を一括最適化

合成梁のT字鋼・ビス・ボルト配置、CLTの繊維方向、接合金物……。これらは人手でやると「担当者によってバラバラ」になりがちだ。

BIM+AIなら:

  • 標準ディテール集をAIが参照し、BIMモデル上の接合部に自動適用
  • ビス長さ・本数、鋼板厚などを自動算出し、干渉チェックまで同時に実行
  • モデルから直接、CLTパネルや鋼材の数量・加工情報を出力

結果として、積算精度の向上・VE検討のスピードアップ・設計変更の反映漏れ防止が期待できる。

3. 製作・施工フェーズ:工程・安全をAIで「見える化」

CLT梁を4分割して現場で接合するような工事では、製作・輸送・揚重・仮設足場まで、工程が複雑になりやすい。

ここで使えるAI活用はかなり具体的だ。

  • 工程シミュレーションAI

    • BIMモデルに工種・日数・リソースを紐づけ、AIがクリティカルパスを算出
    • 「クレーン1台→2台」「夜間作業追加」などの条件変更による工程短縮効果を自動試算
  • 安全リスク予測AI

    • 高所作業・重量物揚重・狭隘箇所などの情報をBIMから読み取り、リスクの高い日・エリアを自動抽出
    • 過去のヒヤリハット・事故データと照合し、「この手順だと墜落・挟まれのリスクが高い」と事前に警告
  • 現場カメラ+画像認識AI
    • CLT梁や接合部の架設状況をカメラで常時撮影
    • AIが安全帯未装着・立入禁止区域への侵入・ヘルメット未着用を検出し、即時アラート

公共施設のような注目度の高い現場ほど、「事故ゼロ」へのプレッシャーは強い。AIは安全管理担当者の“相棒”として、24時間現場を見張る存在になり得る。


ゼロカーボンと木質化の波に、AIなしで付き合えるか?

魚津市はゼロカーボンシティ宣言を行い、その象徴として木質の大架構を選んだ。国交省や林野庁も公共建築物の木造・木質化を強く後押ししている。

この流れは地方自治体案件を中心に、今後さらに加速する可能性が高い。そうなると、次のような課題が一気に顕在化する。

  • 木造・木質構造に慣れていない設計・施工チームが増える
  • CLTやLVL、大断面集成材の扱いに関するノウハウ不足
  • サプライチェーン(製材工場・プレカット工場)の調整が煩雑

ここでも、AIは「経験不足を補うツール」として有効だ。

AIで木造・木質のナレッジギャップを埋める

例えば、次のような仕組みを社内に用意しておくと効果的だ。

  • 過去の木造・木質構造案件のBIM/図面/施工写真/不具合情報を一元管理
  • AIが「この新規案件は過去のどの案件に似ているか」を自動検索
  • 似ている案件のディテール・工程・コスト情報を設計者・積算担当にレコメンド

これをやると、ベテランの経験をAI経由で若手に“継承”できる

特に地方の中堅・中小ゼネコンにとっては、木造・木質案件の増加はチャンスでもありリスクでもある。AIを使って社内ナレッジを形式知化しておかないと、「担当者が辞めたらノウハウも消える」状態から抜け出せない。


自社でAI導入を進めるなら、まず何から手を付けるか

「とびUO!プール級の案件なんてうちには来ない」と感じている会社ほど、AI導入は早めに仕込んでおいたほうがいい。なぜなら、

AI活用の成否は、案件の規模よりも、“データの蓄積と整理”にかかっているからだ。

ここからは、現場向けに現実的なステップを3つに絞って提案する。

ステップ1:BIMデータと現場記録を「残す」文化をつくる

AI活用以前に、データが残っていなければ話にならない。

  • BIMを使っているなら、最終モデルだけでなく途中の案も保存
  • 施工段階では、日々の進捗写真・トラブル・対策内容を簡単なテンプレートで記録
  • CLTや鉄骨など大断面構造では、接合部や補修履歴を必ず写真付きで残す

最初から完璧を目指す必要はない。「消える情報」を減らすことが第一歩だ。

ステップ2:小さなAI活用から始める

いきなり高度な画像認識や自動設計に挑む必要はない。

  • 過去案件から、類似工種の工程・歩掛をAIに要約させる
  • 会議議事録や現場日報をAIで要約し、「リスク」「改善提案」を抽出
  • 社内基準類・マニュアルをAIに読み込ませ、「チャット相談窓口」として使う

このレベルでも、情報探索や資料作成にかかる時間は体感で30〜50%は減るはずだ。

ステップ3:BIM×AIで一つの案件を“パイロットプロジェクト”に

次のような条件を満たす案件から始めると進めやすい。

  • BIMで一通りモデル化している
  • 構造や設備がシンプルすぎず、検討ポイントが多い
  • 発注者がDXや省エネに理解がある(自治体案件だと◎)

この案件で、

  • AIによる工程シミュレーション
  • 安全リスクの事前抽出
  • 設計変更履歴の自動トラッキング

などを試し、うまくいったワークフローだけを標準化していく。いきなり全社展開を狙うと、まず間違いなく失速するので避けたほうがいい。


「とびUO!プール」から見える、建設現場AI活用の次の一手

魚津市のとびUO!プールは、表向きには「ゼロカーボンを象徴する木質プール」だが、裏側には、

  • 大スパン木造という高度な構造課題
  • 公共施設としての安全・耐久性要求
  • 多数のステークホルダーを巻き込むプロジェクトマネジメント

といった、AI導入の格好の題材が詰まっている。

建設業界のAI導入ガイドという文脈で言えば、この事例が教えてくれるのは次の3点だ。

  1. 新しい構造や素材(CLT・合成梁)は、AI・BIMなしには“量産”できない
    単発の力技はベテランの努力で何とかなるが、標準化して広げるにはデジタルの力が必須だ。

  2. 大型公共施設こそ、AIによる工程・安全管理の投資対効果が高い
    監査・説明責任・マスコミの目を考えると、人力だけに頼るのはリスクが大きすぎる。

  3. AI導入は、特別なプロジェクトを待つのではなく、「今の案件のデータを残す」ところから始まる
    とびUO!プール級の話が来る前に、社内データ基盤を整えておいた会社が次の波で勝つ。

あなたの会社が次に手掛けるのは、学校、体育館、市民プール、庁舎改修かもしれない。用途は違っても、BIMとAIを軸にした設計・施工・安全管理の考え方は共通だ。

今のうちに、

  • どの業務をAIに任せたいか
  • そのためにどんなデータを残すべきか
  • パイロットにできそうな案件はどれか

を社内で洗い出しておくといい。

次の「とびUO!プール」が自社に来たとき、AIを味方につけて一歩先の提案ができるかどうか。その差が、数年後の受注力と利益率を分けると僕は思っている。