トンネル崩落から学ぶ、AIで変える建設現場の安全管理

建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理By 3L3C

トンネル崩落などの重大事故を“他人事”で終わらせないために、建設現場でAIをどう安全管理に組み込むかを、実務目線で整理します。

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トンネル崩落は「過去の事故」ではない

和歌山の道路橋崩落、ナショナルトレセンの壁崩落、そして日経クロステックのランキングで部課長層2位に入った「高水圧で壁厚30cmのトンネル崩落」。

ここ数年、構造物の崩落事故の記事は常にアクセス上位に入っています。現場を知る人ほどクリックせずにいられないテーマですし、「明日は我が身」という感覚が強いからです。

これは、建設業界にとって1つのシグナルです。

施工不良や想定外の外力だけを責めていても、事故は止まらない。

設計・施工・監理の“人の限界”を、仕組みとテクノロジーで補わないといけない段階に来ている。

この記事では、トンネル崩落のような重大事故を題材に、「AI×建設現場で安全管理をどうアップデートするか」を具体的に整理します。テーマはこのシリーズ共通の

  • 生産性向上
  • 安全管理
  • 熟練技術のデジタル継承

の3つです。特に今回は「安全管理」に軸足を置きながら、実務レベルで明日から検討できるAI活用のステップまで踏み込みます。


1. 事故が起きる構造は“ヒューマンエラーの積み重ね”

トンネル崩落や橋梁崩落のニュースを追っていると、原因は違っても構造はかなり似ていることが分かります。

  1. 設計・地盤・水圧の想定が甘い or 情報が不十分
  2. コストや工期の制約で「安全側」より「目先」を優先
  3. 現場からの違和感・兆候が、記録・共有されない
  4. 監理・発注者が“紙の報告書”だけを見て判断
  5. トラブルが顕在化して初めて慌てる

どこか1カ所のミスで崩壊するというより、小さな見落としが層のように積み上がった結果として事故が起きているケースがほとんどです。

人材不足、若手中心の現場、協力会社の入れ替わり——2025年現在の建設業界の現実を考えれば、「人の注意力」に安全を依存するのは無理があります。

そこで効いてくるのが、AIを使ったデータを“ためて・見える化して・判断を支える”仕組みです。


2. 高水圧・トンネル・老朽インフラに効くAI安全監視

答えから言うと、高水圧下のトンネル工事や老朽インフラ維持で効くAI活用は、次の3系統です。

  1. 画像認識×IoTによるリアルタイム監視
  2. BIM/CIM+AIによるリスクシミュレーション
  3. 過去事故データを学習させた“ヒヤリハット予測”

順番に噛み砕きます。

2-1. 画像認識×IoTで「おかしい」を即座に検知

高水圧トンネルのような現場で怖いのは、わずかな変状が一気に破局につながることです。

そこで有効なのが、以下を組み合わせた常時監視です。

  • ひび割れ検知AI

    • トンネル覆工やセグメントの表面を定点カメラで撮影
    • AIがひびの長さ・幅・進展速度を自動判定
    • 危険閾値を超えたら即アラート
  • 変位・内圧センサー+異常検知AI

    • 覆工の変位計、内空変位計、間隙水圧計などを設置
    • センサー値の時系列パターンをAIが学習
    • 通常とは違う変化の仕方を“兆候”として検知
  • 作業員行動認識AI

    • カメラ映像から人の位置・動線・危険エリアへの進入を検知
    • ガス濃度上昇時の避難遅れ、立入禁止エリアへの進入を自動検知

現場感覚でいうと、「経験豊富な監督がずっと現場を見ている状態を、センサーとAIで24時間続ける」イメージに近いです。

2-2. BIM/CIM+AIで“設計段階の見落とし”を減らす

今回のようなトンネル崩落記事が部課長層に刺さる理由の1つは、「施工だけじゃなく、設計・計画の段階から危うかったのでは」という視点があるからです。

BIM/CIMモデルにAIを組み合わせることで、例えばこんなことができます。

  • 地質・水文データとトンネル形状モデルを連携し、

    • 高水圧が集中しやすい区間
    • 施工時に内空変位が出やすい断面 をAIが確率的に評価
  • 複数の覆工厚、支保パターン、湧水対策案を入力し、

    • 施工中の変形量
    • 必要な排水能力 をシミュレーションして安全余裕を数値で比較
  • 既存構造物との取り合い(下水道管、既設トンネル等)を3Dで可視化し、干渉リスクを自動チェック

「下水道管に遮られてトンネル掘削中止」といった、過去の日経クロステックランキングに出てくるようなトラブルも、本来はBIM/CIMとAIの干渉チェックでかなり防げるはずです。

2-3. 事故・ヒヤリハット事例をAIに“覚えさせる”

個人的に一番コスパが良いと思っているのが、事故・トラブル記事や社内報告書をAIに学習させる活用です。

  • 国交省・学会・専門誌・ニュースサイト等の事故報告
  • 社内の不具合報告書・是正報告書

これらをテキストとしてAIに読み込ませると、次のようなことができます。

  • 「高水圧」「膨張性地盤」「薄い覆工厚」といったキーワードが設計・施工計画書に現れた瞬間に、類似事故を紐づけて警告
  • 過去に起きた事故との共通パターン(発注条件、工期、地盤条件、下請構成など)を抽出し、リスクスコアとして提示
  • 施工計画書へのレビューコメント案をAIが下書き

要は、ベテランが頭の中に持っている「昔こんな事故があってな……」という知識を、会社全体で共有できる形にするイメージです。


3. 現場目線で考える「AI安全管理」の導入ステップ

AI導入というと、「大企業が何億もかけてやるもの」と身構えがちですが、現実的には小さく始めて徐々に広げるのが一番うまくいきます。

ここでは、土木・トンネル系の元請を想定して、4ステップで整理します。

ステップ1:自社の“事故リスクマップ”をつくる

最初にやるべきはシンプルで、AI導入より前に「どこが一番危ないか」を言語化することです。

  • ここ5~10年の自社・グループ内の事故・ヒヤリハットを棚卸し
  • 工種別(トンネル、橋梁、法面、河川、港湾など)に分類
  • 「重大事故に直結しやすいもの」にフラグを立てる

この作業をきちんとやると、

  • トンネル:高水圧・湧水対策・内空変位
  • 橋梁:撤去時の安定計算・仮設構台
  • 河川:出水時の施工手順

といった“重点テーマ”が見えてきます。ここにAI安全監視を優先投入するだけで、投資対効果が一気に上がります。

ステップ2:1現場限定で「画像AI+簡易センサー」を試す

次にやるべきは、実証フィールドを1現場に絞ることです。

  • 例:高水圧トンネル現場を1つ選び、

    • 覆工変状用の定点カメラ
    • 内空変位計/水圧計
    • 作業員の位置情報(ビーコンなど) を導入
  • クラウド or ローカルPC上で、

    • ひび割れ検知AI
    • 異常検知AI(センサー値)
    • 行動認識AI を“ゆるく”動かしてみる

この段階では、「100%の精度」を求めない方がうまくいきます。目的はあくまで、

  • どのカメラ位置なら有効な画像が取れるか
  • どのアラートなら現場が“うるさすぎない”か
  • 監督や所長がダッシュボードをどう使うか

といった運用感覚をつかむことです。

ステップ3:BIM/CIM+AIで“設計段階”のチェックを増やす

次のフェーズでは、設計部門・技術部門を巻き込む必要があります。

  • トンネル・橋梁のBIM/CIMモデルを標準化
  • 地盤・水圧・既設インフラのデータ連携の型を決める
  • そこに干渉チェックや変形シミュレーションAIを組み込む

ここまで来ると、

「そもそもこの条件で覆工厚30cmは薄い」

「高水圧区間で湧水対策をこう変えたら、別のリスクが増える」

といった議論を、着工前に数字と3Dモデルを見ながらできるようになります。

ステップ4:事故・トラブルナレッジをAIに集約

最後のステップとして、組織全体でナレッジベース+AIアシスタントを持つと強いです。

  • 社内外の事故報告・判決文・技術論文を継続的に蓄積
  • 「トンネル 湧水 対策」「橋梁 撤去 崩落」などのキーワードで、関連事例とリスクポイントをAIが要約
  • 現場からの施工計画書をAIに読ませて、類似事故との関連度をスコアリング

こうなると、若手の監督や設計者でも、ベテラン並みの“事故嗅覚”に近い情報を早い段階で得られます。


4. よくある誤解:「AIを入れると現場が楽になる?」

AI導入の話をすると、現場からはこんな声が出がちです。

  • 「どうせまた書類が増えるんでしょ」
  • 「カメラ増えたら監視されてる感じがしてイヤだ」
  • 「AIが判断するなら、責任は誰が取るの?」

どれももっともです。

ここで大事なのは、AIは“判断を代行するもの”ではなく、“判断材料を増やすもの”だと明確にすることです。

  • カメラ映像は「人を監視」するためではなく、「構造物や危険エリア」を見張るため
  • アラートは「AIの命令」ではなく、「人が判断するための早期情報」
  • 責任の所在は変えず、判断の根拠を増やすためのツールだと説明する

運用上は、次のようなルール設計がおすすめです。

  • AIアラートだけで作業を止めない
  • 必ず「人の目による確認」をワンクッション入れる
  • 逆に、重大アラートを無視した場合は、理由を簡単に記録する

こうしておくと、

  • 無駄な停止は減らせる
  • 後から振り返る時に、「AIアラートと人の判断の差分」を学習できる

というメリットが生まれます。


5. 2026年に向けて、部課長が今決めるべき3つのこと

2025年の今、AIやi-Constructionのニュースはあふれています。ヒト型AIロボットの現場試験のように、派手なトピックも多いです。

ただ、部課長クラスが本当にやるべきことは、実はシンプルです。

  1. 「AIを安全管理と生産性向上の両方に使う」方針を社内で明言する
  2. 次の1年でAI実証をやる現場を2~3件に絞って決める
  3. 事故・トラブルナレッジの“AI向け整理”を始める

トンネル崩落や橋梁崩落の記事がランキング上位に来るのは、怖いから読んでいるだけではなく、

「自分たちの現場で同じことを起こしたくない」

という、現場側の強い危機感の現れです。

その危機感に、経営・管理側がAIという具体的な手段を添えて応えるかどうか。ここが、2026年以降の“安全と生産性の差”を分けると感じています。


まとめ:事故記事を「反省文」で終わらせないために

高水圧下で壁厚30cmのトンネルが崩落したニュースは、決して他人事ではありません。水圧、地盤、施工条件が違っても、人と組織の構造が似ていれば、同じパターンで事故は起きます。

AIは、その構造を変えるための強力な手段です。

  • 画像認識とセンサーで「兆候」を早くつかむ
  • BIM/CIMとAIで「設計段階の見落とし」を減らす
  • 事故ナレッジをAIに覚えさせ「若手でも危険を嗅ぎ取れる」状態にする

この3つを、まずは1現場からでも始めること。ここから、建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理の次のステージが始まります。

あなたの会社では、2026/01/01の時点で、どの現場にAI安全監視が入っているでしょうか。今、その答えを決められるのは、この記事を読んでいる部課長クラスのあなたです。

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