マスティンバー×高性能ファサードのグリーンオフィス「1265 Borregas」を題材に、BIM連携・安全監視・省エネ制御など建設現場のAI活用ポイントを具体的に解説します。

はじめに:CO2削減「96%」の建物から見える未来
同じ規模の鉄骨・RC造オフィスビルと比べて、運用まで含めたCO2排出量を約96%削減──米カリフォルニア州サニーベールに建設されたGoogleのオフィス「1265 Borregas」は、そんなインパクトのある数字を叩き出しています。
この建物の特徴は、大規模木造(マスティンバー)と、オール電化+太陽光発電+高性能ファサードを組み合わせた、徹底したグリーン設計。一方で、ここまで複雑なサステナブル建築を成立させるには、設計・施工・運用のどこかで“無理”が発生しがちです。
ここにこそ、建設業界のAI活用の出番があります。マスティンバーや高性能ファサードを扱う高度なプロジェクトほど、BIM×AI、画像認識AI、安全管理AI、工程最適化AIといった“見えない現場監督”が効きます。
この記事では、ENRの「Best Project, Green Project」に選ばれた1265 Borregasを題材にしながら、日本の建設現場がAIを使ってグリーン建築の生産性と安全性をどう高められるかを整理します。
1265 Borregasはどんなプロジェクトか
まず、プロジェクトの概要をシンプルに押さえておきます。
- 所在地:米カリフォルニア州サニーベール
- 用途:オフィス(Google本社キャンパスの一部)
- 構造:マスティンバー(集成材・CLTを中心とした大規模木造)+一部RCの合成床
- 特徴:
- オール電化+屋上太陽光
- マスティンバーによる炭素固定と軽量構造
- 高性能のクローズドキャビティファサード(乾燥・ろ過空気を常時供給する二重ガラス+自動制御ブラインド)
- 日射制御と昼光利用の最適化
- 置換換気による室内空気質の向上
施工はXL Construction、意匠設計はMichael Green Architecture。Googleにとってもサニーベール市にとっても、初のマスティンバーオフィスというチャレンジでした。
施工前には、実物大2スパンのモックアップを先行構築し、マスティンバーの性能や納まりを確認。さらに、自治体職員に対して、マスティンバー建築の設計・審査・施工・検査のポイントを教育するプロセスも踏んでいます。
このように、技術的にも、行政対応的にも、ハードルの高いプロジェクトでしたが、結果としてENR Global Best Projectsのグリーン部門で「Best Project」を受賞しています。
マスティンバー×AI:複雑な設計・納まりこそBIM連携が効く
マスティンバー建築では、部材一点一点の情報管理と干渉チェックが“普通の鉄骨・RC以上”にシビアになります。ここでBIMとAIをセットで使うと、現場の負荷が一気に下がります。
1. 図面・BIMチェックをAIで半自動化
マスティンバーでは、以下のような情報が膨大になります。
- CLTパネルごとのサイズ・層構成・含水率
- 接合金物の種類・位置・納まり条件
- 耐火被覆の有無・仕様
- プレファブ加工された外装パネルとの取り合い
人力でのチェックには限界があります。そこで:
- BIMモデル上でAIが干渉箇所を自動検出
- 法規条件(耐火区画、避難経路、開口率など)をルール化し、AIが自動コンプライアンスチェック
- 数千枚の部材図を対象にしたミス・矛盾検出AI
といったワークフローを組むと、設計変更に強い体制になります。
特に「マスティンバー+複雑なファサード+設備ルート」という1265 Borregasのような構成は、日本のZEBオフィスや木造中大規模庁舎でも増えつつあります。こうしたプロジェクトほど、BIM×AIの組み合わせを標準化しておく価値が高いです。

2. 構造・環境性能のシミュレーションをAIで高速化
マスティンバー建築は、構造設計と環境設計が密接に絡みます。たとえば:
- 梁・床の断面を変えると、木材量(炭素固定量)と構造安全性が同時に変化
- 柱スパンを変えると、日射取得・昼光利用・設備ゾーニングも変わる
従来は「ケースA〜F」とシナリオを絞って検証していましたが、AIを使えば:
- 数百〜数千パターンの断面・スパン・壁率を一気に試算
- 省エネ基準、ZEB Ready、LCCO2など複数指標を同時最適化
といった**探索設計(ジェネレーティブデザイン)**が現実的になります。
実務でやるなら:
- まずは現行のBIM+シミュレーションフローを整理
- そこにAIで「自動パラメトリック探索」の層を1つ足す
というステップからでも十分効果が出ます。
高性能ファサードとAI:日射・快適性・設備負荷をリアルタイムに最適化
1265 Borregasの大きな特徴が、クローズドキャビティファサードです。乾燥・ろ過された空気を二重ガラスの内部に循環させ、結露・粉じんの蓄積を防ぎながら、自動ブラインドで日射と熱負荷を制御する仕組みです。
こうした仕組みは、日本のZEBオフィスでも「ダブルスキン」「アクティブブラインド」「昼光制御+日射追尾」などの形で増えています。この分野もAIとの相性が非常に良い領域です。
1. AIによる日射・ブラインド制御
従来型の制御:
- 日射量や屋外照度のしきい値でON/OFF
- エリアごとの簡易スケジュール制御
AIを使った制御:
- 気象予測データと組み合わせて30〜60分先の日射・室温を予測
- 室内の在席状況・執務パターンを学習して、眩しさを抑えつつ昼光を最大限利用
- HVACの負荷も含めて、電力料金の高い時間帯を避ける制御
結果として、
- 電力消費を下げつつ、
- 在室者の不満(眩しい・暑い・寒い)も減らせる、
という“二兎取り”が可能になります。
2. 画像認識によるファサード保全

クローズドキャビティファサードはメンテ周期が長いのが利点ですが、故障や気密不良に気づくのが遅れると、性能が一気に落ちます。
そこで:
- 外部ドローン点検と画像認識AIで、破損・汚れ・気密不良の兆候を検出
- 室内側カメラやセンサーのデータをAIが解析し、結露リスクのあるエリアを早期に特定
といった使い方をすると、少人数の維持管理チームでも高性能ファサードを運用しやすくなります。
日本のビル管理現場でも、赤外線カメラ+AIでの断熱不良検出はすでに始まりつつありますが、マスティンバーやZEB建築と組み合わせると、保全と省エネの両面でメリットが大きいです。
施工現場のAI活用:12週間で組み上げた躯体から学べること
1265 Borregasでは、オランダから輸送されたファサードがコロナ禍の国際物流混乱で遅延したものの、現場ではわずか12週間で躯体を組み上げて挽回しています。
マスティンバーの現場は、部材1つの遅延・間違いが全体工程に波及しやすいため、日本でも人手不足時代に向けたAI活用の余地が大きい領域です。
1. AIによる工程管理・リスク予測
- 施工計画(4D BIM)と天候データ、資材納期、過去の現場実績をAIに学習させる
- 「このまま行くと、2週間後に○○工種で遅延リスクが高い」といった予測を提示
- 対策案(増員、工順の入れ替え、夜間施工へのシフトなど)をシミュレーション
という形で、現場代理人の「勘と経験」をデジタルに補完できます。
特に、プレファブ比率の高いマスティンバー現場では、製作工場側の進捗も含めたサプライチェーン全体の見える化が重要です。AIで物流・製作・現場のデータをつなぎ、「どこがボトルネックになりそうか」を早期にアラートする仕組みを入れておくと、今回のような国際物流トラブルにも対応しやすくなります。
2. 画像認識AIによる安全監視
グリーン建築だからといって、安全基準が緩くて良いわけではありません。むしろ、
- CLT床の合成スラブの支保工
- 高所での大型木材パネルの建方
- ガラス+ブラインド一体のファサードパネルの揚重
といった「高エネルギー・高リスク作業」が増える傾向にあります。
ここで使えるのが、画像認識AIによる安全監視です。
例えば:
- ヘルメット・安全帯の未着用を自動検出
- 立入禁止区域への侵入をリアルタイムで検知
- クレーン旋回範囲への接近をアラート表示
といったものです。AIが安全管理者の目を補完することで、少人数でも安全水準を落とさずに現場を回せるようになります。
3. 熟練技能のデジタル継承

1265 Borregasでは、実物大モックアップでマスティンバーの施工方法を検証し、その知見を本番工事に活かしています。日本でも同じような「試し打ち」「試し建方」は行われていますが、AIを絡めると価値が一段上がります。
- モックアップ施工時の手元・全景を高解像度で撮影
- 動画からAIが作業手順・道具の使い方・姿勢を抽出
- それをもとに、若手向けのインタラクティブな教育コンテンツを自動生成
といった使い方をすると、マスティンバーや高性能ファサードといった「新しい工法」のノウハウを、短期間で現場全体に展開しやすくなります。
AI×グリーン建築導入のステップ:明日から何を始めるか
ここまで見てきたように、1265 Borregas級の先進プロジェクトは、AIとBIMを前提にしてこそ、現実的なコスト・工期・安全レベルで実現しやすくなると言えます。
とはいえ、いきなりすべてを真似する必要はありません。日本の建設会社・設計事務所・デベロッパーが、2026年に現実的に取り組めるステップを整理しておきます。
ステップ1:BIMモデルの“AI対応”整理
- モデル内のパラメータ名・ルールを社内で標準化
- AIに読み込ませやすい形(要素分類、属性の整理)に整備
- 法規チェックや干渉チェックをスクリプト化し、その上にAIを被せる前提をつくる
ステップ2:1現場だけ、AI安全監視を本格導入
- カメラ設置とネットワーク環境の整備
- 画像認識AIツールを選定し、「ヘルメット・安全帯」と「立入禁止」の2〜3ユースケースに絞って始める
- 月次で“ヒヤリハット検出件数”を振り返り、安全衛生協議会で共有
ステップ3:ZEB・木造中大規模案件でAI省エネ制御をPoC
- 既存のBEMS(ビルエネルギー管理システム)に、AIによる予測制御レイヤーを追加
- 日射・空調・照明のいずれか1テーマを選び、「現行制御 vs AI制御」でエネルギー削減率を検証
- 削減率と快適性のデータを、次の案件の提案資料に転用
このあたりから始めれば、数年以内に「AIとBIMを前提としたグリーン建築」の実績を自社の強みにできます。
おわりに:AIなしでグリーン建築をやるのは、もはや非現実的
1265 Borregasのようなマスティンバー+高性能ファサードのオフィスは、日本でも2020年代後半〜2030年代にかけて確実に増えていきます。ZEB、CN住宅、木造中大規模、カーボンニュートラル庁舎…。どのテーマをとっても、高性能であるほど設計・施工・運用が複雑化するのが現実です。
だからこそ、グリーン建築とAIはセットで考えるべきだと考えています。
- 設計段階では、BIM×AIで性能とコストのバランスを取る
- 施工段階では、画像認識AIと工程最適化AIで人手不足と安全リスクを抑える
- 運用段階では、AIによる予測制御と保全で、省エネ性能を“設計値のまま”維持する
この3つをつなげられた会社から、次の10年の受注競争で優位に立つはずです。
あなたの会社が最初に取り組むべきAI活用はどこか。グリーン建築案件や木造中大規模プロジェクトを1つ思い浮かべて、「この現場のどこならAIを入れると一番効くか?」をチームで議論してみてください。それが、建設業界のAI導入ガイドの“自社版”をつくる第一歩になります。