Walmartが進める3Dプリント×AIロボット施工から、建設現場の生産性向上と安全管理の次の一手を読み解く日本企業向け実践ガイド。
建設現場で“24時間ロボット施工”が現実になりつつある
アメリカでは、Walmartを含む大手小売チェーンが3DプリンタとAIロボットを使って十数件規模の建設プロジェクトを進める計画を公表しました。施工を担当するFMGI社は「AIで学習したロボットを24時間稼働させ、人は5人のオペレーターだけで運用できる」とまで言っています。
これは単なる海外ニュースではなく、日本の建設会社にとっても「次の5年をどう戦うか」を考えるヒントになります。少子高齢化による人手不足、残業規制、コスト高騰、安全管理の高度化——どれも、従来のやり方だけでは限界が見え始めています。
この記事では、Walmartと3Dプリント施工企業Alquist 3Dの取り組みを起点に、「3Dコンクリートプリント×AIロボット」が建設生産と安全管理をどう変えるのか、日本企業が今何から着手すべきかを整理します。「建設業界のAI導入ガイド」シリーズの一環として、**生産性向上と安全管理の両方に効く“次の一手”**を、できるだけ具体的にお伝えします。
Walmartが進める3Dプリント建設の中身
結論から言うと、Walmartの事例は「3Dプリントが実証実験の段階を抜け、本格的な量産フェーズに入った」ことを示しています。
3Dプリントで十数件の小売店舗プロジェクト
・米Alquist 3Dは、Walmartを含む複数の小売事業者と組み、全米で十数件以上の3Dプリント建設プロジェクトを2026年に展開予定と発表しました。 ・対象は、店舗の増築やピックアップセンターなどの商業施設の一部構造体やインフラ要素です。 ・すでに2024年にはテネシー州アセンズのWalmartで、約743㎡、高さ約6mの増築部分を3Dプリントで施工した実績があります。
つまり、「たまたま一棟だけ実験的に作ってみた」という段階から、“使える技術”としてチェーン展開レベルに拡大し始めているわけです。
3社連携モデル:施工会社×機械リース×3Dプリント技術
今回のスキームも興味深いポイントです。
- 3Dプリンタ開発・運用:Alquist 3D
- ゼネコン/元請:FMGI(フルサービスの総合建設会社)
- 機械リース・保守:Hugg & Hall(建機レンタル会社)
FMGIはAlquistの大型3Dプリンタ「A1X」を自社保有し、Hugg & Hallがファイナンスと保守を担当する形。これにより、FMGIは全米での大規模3Dプリント案件を継続的に受注できる体制を整えています。
日本でいえば、
「中堅ゼネコン+建機リース会社+3Dプリンタスタートアップ」の三位一体モデル
に近いイメージです。1社だけで技術・投資・運用を抱え込まず、役割分担型でスケールさせているのがポイントです。
3Dコンクリートプリント×AIが変える“生産性”のリアル
3Dプリント建設は、単に「早くて安い」という話に矮小化されがちですが、実際にはAIとの組み合わせで現場オペレーションそのものが変わるところに本質があります。
24時間稼働と5人オペレーション
FMGIは自社サイトで、次のようなモデルを掲げています。
AIで訓練したロボットを24時間稼働させ、それを5人の人間オペレーターで支える
ここから見えてくるのは、
- 従来:型枠・配筋・打設・養生ごとに多数の職人数が必要
- 新モデル:
- 3Dプリンタが型枠・一部仕上げを一体成形
- 配筋や設備スリーブもBIM情報を元に半自動配置
- 夜間でも騒音・粉じんを抑えたロボット施工で連続稼働
結果として、
- 工期短縮(日中のみ稼働前提から24h前提へ)
- 人件費削減(人の役割は「マシン管理+品質確認」中心)
- 工程のばらつき減少(AI制御で出力品質が安定)
という、建設生産性のボトルネックを直撃する改善が見込めます。
日本の「2024年問題」への処方箋として
日本では2024年から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、
- 夜間・休日の残業に頼った工期短縮
- 短期集中の突貫工事
といった“力技”が取りづらくなりました。その一方で、公共工事・物流施設・データセンターなどの需要は底堅く、**「人は減るのに仕事は減らない」**という矛盾が顕在化しています。
このギャップを埋める現実的な手段のひとつが、
「人が働けない時間帯に、AIロボットと3Dプリンタを動かす」
という発想です。人は日中に高付加価値な作業(段取り、安全管理、検査、顧客対応)を行い、夜間はロボットによる繰り返し作業に任せる。Walmartの事例は、そのモデルが大型商業施設の世界で実際に成立し始めていることを示しています。
安全管理の視点:ロボット化で減らせるリスク、増えるリスク
生産性向上だけでなく、安全管理の質を変える技術としても3DプリントとAIは有効です。ただし「自動化=安全になる」と短絡的に考えるのは危険で、リスク構造が変わると捉える方が現実的です。
減らせるリスク:高所作業と重量物取り扱い
3Dコンクリートプリンタの強みは、
- 膨大な量のコンクリート打設を
- 高所を含めて
- 一台のロボットアームが繰り返し作業として行う
点にあります。これにより、
- 高所での型枠組立・解体作業
- 打設時の重量物取り扱い
- 打設中の足場からの墜落・転落
といった人が直接関わる危険作業を大幅に削減できます。日本の労災統計でも、墜落・転落、飛来・落下、はさまれ・巻き込まれは常に上位です。この3つに強く効く技術は、安全衛生担当者から見ても導入検討に値します。
新たに生まれるリスク:AIロボットならではの管理ポイント
一方で、ロボット・AI施工だからこそ生じるリスクもあります。
- センサー異常や通信障害による誤動作
- AIモデルの誤学習による不適切な軌道・出力
- 夜間無人稼働中のトラブル検知・通報遅延
ここに対しては、**「AI×画像認識による安全監視」**が効いてきます。
例えば、
- 現場カメラ映像をAIで解析し、
- 人が立入禁止エリアに侵入していないか
- ロボットの動きが通常パターンから逸脱していないか
- 異常時はアラートと自動停止を連動
といった運用を組み合わせる。安全管理は、「人による巡回」から、
人+AI監視+自動停止ロジック
という三層構造に変えていく必要があります。
BIMと連携した“デジタル施工”としてどう組み込むか
3Dプリント建設を単体のガジェットとして見ると失敗します。実際に現場で価値を出すには、BIMと工程管理システムを中心に据えた“デジタル施工”の一部として設計することが重要です。
BIM→プリントデータの一気通貫
理想的なフローは次のようなイメージです。
- BIMモデルで躯体・設備・仕上を統合設計
- 3Dプリント部分(壁・パラペット・外構など)をプリント用モデルとして分離
- AIがBIMモデルから施工手順や積算情報を抽出し、
- プリントパス
- 必要材料
- 所要時間 を自動算出
- 現場ではプリンタがBIM由来のデータに沿って施工
この一連の流れが回り始めると、
- 図面変更→プリントデータ更新→現場反映
までがデジタルでつながるため、手戻りや誤配筋のリスクが減少します。
工程管理の最適化:AIで“詰まるポイント”を事前に回避
3Dプリンタは「出力速度は速いが、段取り替えに弱い」という側面があります。ここはAIによる工程管理最適化が活躍します。
- 過去プロジェクトのデータから、
- どの形状・高さ・気温条件で不具合が出やすいか
- どの順序でプリントすると待ち時間が少ないか
- これをAIが学習し、
- 最適な施工順序
- 予備日や夜間施工のベストな配置
を提案する。人の経験だけに頼らず、データとAIで“詰まりやすい工程”を事前に回避するイメージです。
日本の建設会社が今すぐできる“3ステップ導入ロードマップ”
「とはいえ、いきなり3Dプリントで店舗増築はハードルが高い」というのが多くの日本企業の本音だと思います。そこで現実路線として、3ステップの導入ロードマップを提案します。
ステップ1:AI画像認識とセンサーによる安全監視の導入
最初の一歩としておすすめなのは、安全管理領域でのAI活用です。
- 作業員のヘルメット・安全帯着用の自動検知
- 危険エリアへの立入検知
- 重機と人の接近アラート
など、既に国内でも実績が多い分野から始めると、
- 労災リスクの低減
- 安全担当者の巡回負荷の軽減
- 「AIを現場で運用する」経験の蓄積
につながります。ここでAIの精度検証や現場教育のノウハウを貯めておくことが、後の3Dプリントやロボット施工導入の下地になります。
ステップ2:BIM+AIによる工程・コストシミュレーション
次に取り組みたいのが、BIMとAIを使った計画段階の高度化です。
- BIMモデルをベースに、
- 工程シミュレーション
- コストシミュレーション
- 安全リスクの事前評価
- これらをAIが支援することで、
- 人員配置
- 夜間・日中の作業配分
- 現場レイアウト
を最適化できます。ここまで来ると、「この部分は人が施工」「この部分は将来ロボット施工に切替え」といったハイブリッド施工の検討ができるようになります。
ステップ3:パイロット案件としての3Dプリント・ロボット施工
最後のステップが、実際のパイロット案件での3Dプリント・ロボット施工です。いきなり主要構造体ではなく、
- 外構の擁壁
- 現場事務所・ストックヤードの壁
- 倉庫・物流施設の一部増築
といった、構造リスクが比較的低く、標準化しやすい部位から着手するのが現実的です。この段階では、
- 3Dプリント企業やロボットベンダー
- 建機リース会社
とのパートナーシップ構築が鍵になります。Walmartの事例でも、1社完結ではなく複数社連携モデルを採用している点は、日本でも大いに参考になります。
シリーズ全体の文脈の中で:AI導入の“実戦フェーズ”へ
「建設業界のAI導入ガイド:生産性向上と安全管理」シリーズでは、これまで、
- 画像認識による安全監視
- BIM・工程管理のAI活用
- 熟練技術のデジタル継承
といったテーマを扱ってきました。WalmartとAlquist 3Dの事例は、それらの要素が**“ひとつの現場で有機的に結びついた”実戦例**だと言えます。
日本の建設会社にとって、いきなり同じスケールで真似る必要はありません。ただ、
- 24時間ロボット施工という発想
- 人5人+AIロボットという極端な省人化モデル
- 施工会社・機械リース・テック企業の連携というスキーム
は、これからの5〜10年を設計する上で無視できないシグナルです。
このシリーズを通じて、読者のみなさんの会社が、AIとロボット、BIMを「バラバラの施策」としてではなく、ひとつの生産システムとしてどう組み立てるかを考えるきっかけになればと思います。
次の一歩として、自社で最もボトルネックになっているのは「生産性」なのか「安全」なのか、あるいは「人材不足」なのか——まずはそこをはっきりさせてみてください。課題がクリアになれば、どのAI技術から着手すべきかも、意外なほどシンプルに見えてきます。